何を作っているのかわからず説明もできないのは悔しい 自社製品への挑戦
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何を作っているのかわからず説明もできないのは悔しい 自社製品への挑戦

ものづくり新聞

町工場が挑むB2Cとは、これまでB2B中心だった町工場(中小製造業)が、自社製品を作り、一般消費者に向けて販売すること。様々な理由からB2Cに注目し、製品開発や販売方法、ブランディングなど新たに挑戦している方々を取材しました。これからB2Cに取り組もうとしている製造業の方や、行き詰まり感や課題を感じている方々のヒントになれば幸いです。詳しくは以下の記事をご覧ください。(ものづくり新聞 記者 中野涼奈)


有限会社大高製作所 大髙晃洋さん

有限会社大高製作所は、神奈川県横浜市都筑区で主にダイカスト金型の設計・製造を行っています。今回は代表の大髙 晃洋(おおたか あきひろ)さんにお話をお伺いしました。

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大高さんは学生時代からバレー、柔道、バスケ、モーグルと様々なスポーツをしてきたそうです。そして特に山に魅了され、冬はスキー、夏はアルプスでの縦走(山頂に立った後下山せずそのまま次の山へ登ること)に夢中になったそうです。

「大人になってからは日本の3,000メートル級の山は全部登ろうと決意し、毎年お盆休みを利用して5年掛けて23座(座は山の単位)を達成しました。アルプスに登った時は食料と水、テントも合わせて最大25キロを担ぎながら、最大10日かけて登りました。真夏でも風呂には入れないし、最も山深い登山口や稜線だと他に歩いている人もいません。1、2日歩いてやっと湧水が飲めるような環境です。苦しかったですが、下山後のビールが美味しかったです。笑」

昼は金型 夜は大学生

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大高製作所は大高さんが中学生の頃、お父様が独立し立ち上げました。当時の様子を伺いました。

「ダイカスト金型屋で働いていた父が、私たち家族を養うために一念発起し独立したと聞いています。母も手伝っていて、私たち子供も週末父と一緒に工場へ行き、空いているスペースで妹とバドミントンをしたり、時には工場で夜ご飯を食べたりと思い出があります。」

昭和59年に創業した当初から、大高さんのお父様はパソコンを導入し、CADで金型の設計をしていたそうです。パソコンを持っている町工場はまだ珍しい時代でした。

「当時Windowsはまだなく、『PC-98』というパソコンを使っていました。CADをお絵描きソフトのように使って遊んだり、パソコン通信を楽しんだりと、自然とパソコンの操作やネットの世界を覚えていきました。当時の土台があったおかげで、自分でHTMLのタグを直接打ち込んでホームページを制作できるようになりましたし、自分のことを発信する工夫や見せ方を考えるようになりました。」

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大高さんが高校3年生の時、お父様が倒れてしまい引退することになってしまいます。代わりに大高さんの従兄弟にあたる方に工場長として現場を切り盛りしてもらい、大高さんは昼は大高製作所で金型を作り、夜間は大学に通うという生活だったそうです。

「新しい世界を知りたくて、どうしても大学に行きたかったんです。当時はバブル真っ盛りで華やかなキャンパスライフにも憧れていました。でも夜学なのでそんなものはなく。笑 すぐに終電の時間になってしまうので遊ぶ時間もほとんどありませんでした。
そしてこの時代はWindows98が登場した頃で、これからはパソコンやインターネットを使って仕事する時代になるというのは何となく予想していたので、情報工学を勉強していました。
でも働きながら学校に通うというのは大変で、指を骨折して入院したこともあり、結果的には中退することになり結構苦しい時期でした。」

32歳で家業を継ぐ

大高さんが32歳の頃、工場長が退職し独立することをきっかけに大高製作所の代表となりました。2022年2月時点で3名が所属しています。

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「父が創業してから現在に至るまで主力事業はダイカスト金型の設計・製造です。汎用機を扱う社員が1名、マシニングやNC機での加工は私が担当しています。その他にも営業、打ち合わせ、CAD、CAM、材料発注・・・と町工場の社長は何でもしています。」

製造する金型の種類や分野は、時代により変化してきたといいます。

「かつては数十万〜数百万個ほどの大量生産用金型も製造していました。しかしロット数が多いものや、特に簡単な形状のものは海外生産に切り替わってしまいました。日本での生産に戻そうという動きもありましたが、結局はほとんど海外生産に移ったまま戻って来ませんでした。

現在弊社で製造しているのは、作るのが難しい複雑な金型や手間のかかる金型ばかりです。お客様は自動車、建築、半導体、産業機械用など様々な業界の方がいらっしゃいます。」

フェイスシールドを開発

2020年3月、流行する新型コロナウイルスの影響でマスク不足が起こりました。そのニュースを見た大高さんは、ダイカスト金型の製造を続けながらも何かできることはないだろうかと模索を始めたそうです。

「既存設備ではマスクなどの布製品を製造することは難しかったので、治療で使われるECMO(エクモ:体外式膜型人工肺)の部品製造も検討しましたが、参入できそうにありませんでした。そこで、フェイスシールドなら樹脂だし作れるかもしれないと考えました。3Dプリンタでフェイスシールドを作っている方もいたのでできるかもしれないと。その時は、マスク不足で大変な医療業界で使ってもらいたいという思いから開発が始まりました。」

医療業界をターゲットにフェイスシールドの開発を決め、まずは世の中にどんなフェイスシールドがあるのか調査を始めた大高さん。神奈川大学経営学部の道用大介(どうよう だいすけ)准教授が、3Dプリンタを用いてフェイスシールドを開発し、そのデータを公開していることを知りました。

「道用先生に事情を話し許可をいただき、商品化することになりました。そこでできたのが最初の『KANAGAWAモデル』です。しかし、当初考えていた医療業界は、品質などの制限が厳しく入り込めませんでした。

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医療業界に使ってもらいたいと開発したものの、なかなか入り込めず悩んでいたところ、思わぬ業界から注目されたのです。

予想外なことにテレビ業界の方々から注目されました。きっかけは大手テレビ局の方が弊社のホームページを見つけてくださったことです。
普通のマスクや頭に固定するフェイスシールドでは、お化粧や髪型が崩れてしまい困っていたとのことでした。首に掛けるタイプなら気にせず使いやすい!と業界内でクチコミのように広まり、様々な方からご連絡いただくようになりました。」

もっと使いやすくするために

大高さんはテレビ業界から注目されたことをきっかけに、より撮影時に使いやすいものにしようと改善点を探り始めました。

エンタメやテレビ業界の方にヒアリングし、改善点を探っていました。しかし自分一人だけでは不安なこともあり、マーケティングのプロの力を借りようと永江一石さんに相談しました。永江さんのことは数年前からメルマガなどをチェックしていました。デザイナー、営業担当など外部のメンバーを集めてもらい、フェイスシールドをより進化させていくためのチームができました。」

デザインや販売、マーケティングなどはプロに任せたという大高さん。チームは“よりスタイリッシュなフェイスシールド”に向かって動き出しました。

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「そうしてできあがったのが、首掛け専用のフェイスシールド『レイヤード』です。着脱しやすく、ヘアメイクや化粧を崩しにくいのが特徴です。サイズは2種類用意しました。使いやすく顔が綺麗に映るとテレビ業界の方々からは高評価をいただけました。

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さらに、光の反射による映り込みが少ないフェイスシールドが求められていることがわかったので、更に進化させた『モスアイシート』という製品も作りました。ライブハウスで最前列の席のお客さんはフェイスシールド必須で映り込みが気になるという声もあったので、モスアイシートは透過率99%というのが特徴です。」

*開発ストーリーはこちらからご覧いただけます。

思い切って社外の力を借りる

開発から販売の中で、ものづくり以外の部分はどのようにカバーしたのか尋ねると、全て自分でやろうとせず、思い切って社外の人の力を借りたことがポイントだったといいます。

「フェイスシールドは基本的に社内にある機械を活用して作りました。できるだけ既存の設備を使い、ないものは外注という考え方です。営業、デザイン、発送業務など社内でできないことは外部の専門家に委託しました。
ECサイトからご注文いただいた際は、物流センターに注文データが行き、梱包、発送しています。」

販売や宣伝の方法について尋ねると、誰よりも早く動いたこと、ホームページやSNSで積極的に情報発信を続けたことが有効だったといいます。

テレビ、エンタメ業界へのアプローチはFacebook、TwitterなどのSNSでの広がりが効果的でした。
あと、最初にフェイスシールドを見つけていただいた大手テレビ局の方は、Googleでフェイスシールドの写真を画像検索し、弊社を見つけたそうです。まだマスク不足が深刻な時期で、首に掛けるスタイルが画像検索の中でかなり目立っていて辿り着けたそうです。
そして、芸能界の方々がフェイスシールドを装着している写真をテレビドラマの公式SNSに掲載していただいたり、ドラマのエンドロールに弊社の名前を出していただきました。それぞれが呼び水になり好循環が生まれました。
ターゲットがテレビ業界だったこともありますが、SNSやインターネットを通した宣伝は効果的だったと思います。」

手段は必ずしも自社製品開発ではない

大高製作所の作るフェイスシールドが、テレビ業界を中心に受け入れられるようになった理由、開発や販売で心がけたことを伺いました。

今必要なんだからとスピード感を持っていち早く着手したことと、自分で毎日着用して品質を確かめたことが良かったと思います。
最初の製品は、着想から販売までは約1ヶ月でしたし、首掛け専用のフェイスシールドもどこよりも早く作りました。今必要なものを今届けるという気持ちは強かったです。
初期のKANAGAWAモデルは頭に装着するものでしたが、暑苦しいし締め付けられて頭痛が起きてしまい、自分で作った製品ながら嫌いになっていました。でもどうにかして世の中の役に立つことはできないかと毎日悩み続けたことで、首に掛けるというスタイルに辿り着きました。
あと、改良版を開発する際に実際に使っていただいている方へじっくりヒアリングをしたことも良かったです。そうしなければ特に女性の方は首も頭も小さい人が多く、サイズ違いがあった方がいいというニーズは見つけられませんでした。」

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スピード感を持って、丁寧にニーズを探ったからこそ広く支持されるようになったフェイスシールド。大高さんは利益以上に得たものがあるといいます。

「コロナ禍で本業が落ち込んだ時期にフェイスシールドがあったおかげで何とかやってくることができました。しかし予想以上にものすごく売上が伸びたかと言われれば、正直そういうわけではありません。お金の面で見るとそうですが、B2C向けの自社製品は、利益以上に大高製作所という存在を示すことができたので挑戦して良かったと思っています。

企業は存続することが第一だと考えています。この挑戦をしたことで、企業を未来に繋ぐための一歩を踏み出し、ものづくりのイメージアップ、従業員のモチベーションアップなど大切なものを得たと思っています。そして、型屋だから型を作らなければならないという、まさしく型にハマった固定概念を突き破ることができました。
そういったことが真の目的で、そのための手段としてB2C向けの自社製品を開発しました。だから、必ずしも自社製品を開発しなければならないということはないと考えています。本来であれば金型という立派な製品を多くの方に見ていただき、役に立っていることが実感できれば良いはずなんです。でも現実的には機密保持もあり、堂々と一般の方々に見せることはできません。B2C向けの製品はそこを埋め、繋ぐことができるあくまでも一つの方法ですね。」

町工場の潜在的問題

大高さんはご自身のブログで「町工場と後継者と自社製品」というタイトルの記事を投稿されています。

以下、“町工場の潜在的問題”という見出しで書かれている部分の抜粋です。

どの機械のどの部分に使われるのか、さっぱりわからない図面が弊社にも回ってきます。これでテンション上げて作ろう、というのは、特に若手の方には難しいと思います。
家族や友人に、これ作ってるんだぜ!
と少しくらいは話をしたくなるのが人間だと思うんです。
そうなると、自社製品というのが一つの解決策になると行きつきます。
*大高製作所ブログ 「町工場と後継者と自社製品」より

今作っている部品がどんな機械のどこに使われるかわからないという話は、取材中よく伺うことがあります。

「32歳で代表となり、5年くらいは目の前の仕事に必死でしたが、色々なことが分かっていくにつれて、何を作っているのかわからず説明もできないのが非常に悔しいと思うようになりました。もちろん仕事だから全力でやりますが、私自身は納得していません。何に使われるものを作っているのかがわからなければ、もっと良くするアイデアも言えません。

例えば、受注し製作している時に歩留まりの悪さに気付いた時には、現場で何とかカバーします。それを伝えられたら設計段階でそれを考慮することができるかもしれませんが、伝える術がありません。
どうしてこういう設計なんですか?と聞いても、昔からこうだからとしか答えがない時もあり、やりきれない思いです。機密保持の問題で実現は難しいですが、1つのプロジェクトに関して、設計者から部品加工者までが自由に話せるようなSNSがあればいいなと長年思っています。」

子供たちにものづくりを楽しんでもらいたい

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今の大高さんが目指す先を伺いました。

「日本のような市場規模で、様々な製造業が幅広く分厚く集っている国は他に数えるくらいしかありません。それぞれがこのまま衰退していくのではなく、どうやったら生き残れるかを考えると、一つの答えが子供に目を向けることだと思いました。

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*イベントで配布した真鍮製のオーナメント。都筑区の町工場が協力して作りました。磨き体験ができます。

メイドインつづき”という横浜市都筑区のものづくり企業が集まった団体に参加しています。そこで“おうちでものづくり”という工場から出た廃材を配って、家でものづくりを楽しんでもらうというイベントを企画しました。はじめは不思議そうにしている子供も、私が試しに作ったものを見せると目を輝かせるんです。そうやってものづくりを楽しんだ子供たちが、将来自分もものづくりがしたいと思ってくれたら何よりも嬉しいです。

一緒に子供たちがものづくりを楽しめるように、その道筋を作りたいです。」

有限会社大高製作所
所在地 神奈川県横浜市都筑区川向町1192-3
HP 有限会社大高製作所
ECサイト LAYERED
Twitter @otaka_ss_mold


編集後記

自分たちの製品を毎日使って、使い心地をとことん確かめるというのは、大事なことだと感じました。コツコツ検証を積み重ねたことで、達成感で終わることなく、多くの人にとって役に立つ商品になったのではないでしょうか。

何を作っているのかわからず、説明もできないのが悔しいという思いはかつて金型業に従事していた者としてとても共感しました。そういった想いを抱えている製造業の方々に是非読んでいただきたいインタビューとなりました。




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