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「間口は狭く、奥行きは広い」そんな美容鋏メーカーになりたい 和歌山から世界に美容鋏を届ける 菊井鋏製作所 菊井健一さん(菊井鋏製作所 特集1)

ものづくり新聞

皆さんはどのくらいの頻度で髪を切るでしょうか。
美容室や理髪店に行かれる方も多いと思いますが、美容師さんが使っている「(はさみ)」に注目したことはありますか?

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美容師の方々の商売道具である「鋏」を製造している有限会社菊井鋏製作所を尋ねました。本社工場があるのは、和歌山県和歌山市の昔ながらの長屋が多いエリアです。

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美容師さんの商売道具 「鋏(はさみ)」

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菊井鋏製作所の鋏作りは、溶接から始まります。はじめは上の写真のように、鋏のパーツが分かれています。溶接するのは、それぞれのパーツの穴が空いている辺りです。

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次に、溶接した部分を研磨ベルトや砥石を使いながら削ります。同じ荒さでもメーカーによって硬さや切れ方が異なるため、様々な種類の研磨ベルトをストックしているのだそうです。

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荒取りし、形をある程度出してから磨き上げていきます。一見、全て同じような鋏に見えるかもしれませんが、開き具合や刃の丸みなど一つ一つ異なります。オーダーメイドの注文は、美容師の方の好みや希望に沿って、職人による細かい調整が行われています。

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最終確認はこちらの暗いスペースで行います。鋏に光を当て、僅かな光の漏れ具合から刃の形状を確認するのだそうです。

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出来上がった鋏は、検品を経て出荷されます。用途により刃の形状は様々ですが、鋏の価格はどれも10万円前後です。

家業を継ぎたいという息子、驚き寝込む父

有限会社菊井鋏製作所シリーズ、第一弾は代表取締役の菊井健一(きくい けんいち)さんにお話を伺いました。

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ーー家業を継ぐ前や学生時代のことをお聞かせください。

京都大学で化学を専攻していました。4年生の時には卒業研究の合間に、入社の準備として、菊井鋏製作所の得意先や取引先を回っていました。

ーー学生時代から、家業を継ぐことは決めておられたのですね。

得意科目や興味から、大学では化学を専攻していましたが、将来について考えた時に、化学の道に進むことは自分の中であまりピンと来ませんでした。じゃあ何がしたいかなと考えた時に、手作業で何かものづくりする仕事がしたいと思いました。その時に、自分の実家ってそういう仕事してるじゃんと思ったのが大学1年生の時です。

ーー親元を離れてみて、気付いたのですね。

そうです。正月に帰省した時に、家業を継ぎたいと親に話したら、父親が驚いてしまい、寝込んだという裏話もあります。笑 もう地元には帰って来ないだろうと思っていたら、いきなりそんなことを息子が言い出したので、それはそれで『どないしたらええんやろ』という感じだったんだと思います。

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ーー驚きつつも本心は嬉しかったのではないかと想像します。
  菊井さんは、小さい頃からものづくりがお好きだったのですか?

プラモデルを作るのは好きだったのですが、金属の加工となると全然違うなというのは入社してから感じました。DIYなどを楽しむ方も多いと思いますが、金属の加工は家ではできないですよね。ものづくりは好きでしたが、入社してからその奥深さを知りました。

ーー家業に入社した時の心境はいかがでしたか?

会社の方々には受け入れてもらえていたと思います。特に工場長には小さい頃に面倒を見てもらっていたこともあり、距離はあまりなかったと思います。良くも悪くも小さい頃から馴染んでいるおっちゃんというか、そんな関係性が最初からありました。

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ーー菊井さん、趣味などはありますか?

子供が生まれてからは、1人で何かするということはなくなりましたね。私、広義のインドアなんですよ。

ーー広義のインドア、とは?

自宅のWi-Fiが繋がる庭先で、音楽や動画を楽しみながらアウトドアがしたいタイプなんです。笑 ご近所さんを誘って庭でバーベキューをしています。

ーーいいですね!マンション住まいではなかなかできないことですね。

細かな要望はLINEで聞き、あなただけの鋏を作る

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ーー社長に就任されたのは2016年と伺いました。菊井さんが社長になられてから、何か変化はありましたか?

社長になってすぐの頃、海外展開の補助金をいただくことができました。それが補助金だけでなく、アドバイザーを付けて事業計画を作り、市場調査するというものでした。この補助金を介して、事業計画のことなどを色々と学べました。

ーー海外展開について何か動きはあったのですか?

アメリカのロサンゼルスにある現地の美容室などに調査しに行きました。その時の繋がりは今でもあって、アメリカの販売店向けの製品も受注しています。

ーー他に、社長になられてから変えていったことなどはありますか?

製造工程そのものを変えるのは、長年慣れているやり方があり、なかなか難しいものがあります。ですので、大元(おおもと)の材料や外注先との協力関係を少し変えてみるということはしています。あと、売り方もだいぶ変わったなと思います。

ーー売り方が変わったというのは具体的にどのようなことでしょうか?

今までは、なかなかPRの方法がわからずしてこなかったのですが、ウェブを使ってPRするようになりました。最近だと、ECサイトを立ち上げ販売を始めたり、LINEを通してご注文いただけるようにしました。本当に少しずつですが、色々なことが動き始めています。

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ーーECサイトからの注文は増えてきていますか?

そうですね。もちろんOEMの受注もいただいていますが、ECサイトからの注文は増えたと感じています。
今までは、美容師さんと私たちの間にディーラーと呼ばれる方が入り、注文を受けていました。そのほとんどが美容室にディーラーさんが訪問し販売するという方法でしたので、新型コロナウイルスの影響で訪問が難しくなった時に、ECサイトの需要は高まりました。でも、その時はじめてECサイトを用意したわけではなく、色々なお客様と繋がりを増やしていくという下準備を地道に積み重ねていたからこそ、上手くいったと思っています。

ーーECサイトとは別で、LINEからも受注しているのですか?

ECサイトは、製品を買いたいという方にとっての入り口、ショールームのような役割と考えています。というのも、美容師さんが使う鋏は商売道具ですので、人それぞれにこだわりがあることが多いんです。ECサイトにはベーシックな製品を載せて、細かい調整やこだわりはLINEで直接伺いますというふうにしています。LINEを介してクレジットカード決済もできるようになっているので、お客様にとっても買いやすいと思います。

ーー作り手と使い手の距離が縮まっていますね。

特に難しい注文の場合は、最終的な仕上げをする前にLINEで製品の写真を送り、どんな形状になるかを製造途中で確認していただくことも始めています。自分の注文した鋏がどのようにできているのかは気になると思いますし、お客様も自分たちも満足のいく製品にするために試行錯誤しています。

鋏を使う美容師さんの魅力も伝えたい

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ーー菊井さんのブログを拝見していると、外部との関わりや、外部への発信に力を入れていらっしゃる印象を持ちました。

大学時代はイベントサークルに入っていて元々イベントは好きでしたが、ものづくりの仕事を始めてからは機会がなく離れていました。でも、和歌山の美容師さんから、イベントがあるから手伝って欲しいと声を掛けてもらい、時々参加していました。

ーー具体的にはどのようなイベントに参加されていたのですか?

コロナ禍以前は、「髪音(はつおん)」というDJクルーのプレイに合わせて、美容師さんがヘアカットしていくというイベントにブース出展として参加しました。その後、青空美容室という屋外でヘアカットするイベントや、直近だと日本工芸産地博覧会2021への出展も大きな出来事でした。

ーーどんな思いからそういったアクションが生まれたのでしょうか?

今までは、直接のお客様である美容師さんに向かって発信していけば良いと思っていました。でもよくよくその先を考えてみると、美容師さんが髪を切っているお客様も、私たちの製品を使ってくれているお客様なんです。直接的には関わらないかもしれないですが、広く発信していくことで、いつかどこかで繋がっていくと思います。そんな思いから、外に目を向けています。

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ーー外部と交流や発信をしていく中で感じたことはありますか?

青空美容室を開催した時は、美容業界全体がコロナ禍による休業や補償などの暗い話で持ちきりでした。そんな中でも、やっぱり美容師の仕事ってかっこいいよねということを、鋏を作っている私たちから発信できないかと考えていました。日本工芸産地博覧会でも、自分たちの技術の価値だけでなく、普段髪を切ってくれる美容師さんはこんなかっこいい鋏を使って、こんな風にカットしているということを伝えたくて、ステージでのモデルカットを企画しました。自分たちだけでなく、美容師さんの魅力を伝えたいという気持ちも大きいです。

間口は狭く、奥行きが広い会社にしたい

ーー美容師さんの使う鋏は日本製が多いと聞きました。海外製のものは脅威にはならないのでしょうか?

私たちは鋏職人ですが、使っていただいている美容師さんも職人です。相手も職人さんというのはありがたいもので、良い鋏を使いたいと思っていらっしゃる美容師さんが多いです。私たちもそれに応えられるものづくりをしているので、現時点ではそれほど海外製は脅威ではないと考えています。だからといって、ずっと同じように鋏作りをしていれば良いというわけでもありません。海外メーカーが参入できないような細かな仕事をするのが正解だと思っています。

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ーー確かに、オーダーメイドは海外ではなかなか対応できないですよね。

そこをしっかりできるのが日本製であり、菊井鋏製作所というメーカーであるということを伝えていかなければいけないと考えています。そういう意味では、ブランドの位置付けや見せ方にも工夫が必要だと感じているところです。

ーー菊井鋏製作所をどのように見せていきたいとお考えですか?

「間口は狭く、奥行きが広い」そんな会社にしたいと思っています。カタログに載っている製品はごく一部でも、奥にちょっと入ってもらえれば、オーダーメイドでいろんな要望に応えられますよ、というイメージです。正直、ずらっと製品を並べても一つ一つの違いや魅力は、あまり伝わらないと思うんです。

ーー美容師さんの使う鋏は、購入後のメンテナンスも必要だと思います。その辺りはどのように行っていますか?お客様が遠方の場合、なかなか購入元である菊井さんに依頼しにくいのではないかと思います。

都心にアンテナショップを作って、そこでメンテナンスできれば良いですが、規模の問題でなかなかそうもいきません。できる範囲で早めに修理してお返ししていますが、他の業者さんに出されるお客様がいても仕方ないと思っています。その中でも、やっぱりメーカーに出したいと考えているお客様に対して、きちんとサービスを提供していくというところが大事だと考えます。

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ーー海外展開のお話がありましたが、菊井さんの鋏は海外でも購入できるのですか?

一部の国へは輸出を行なっています。例えばアメリカのある販売店には日本語のできる方がいらっしゃるので、その方とやり取りをして卸しています。日本のように細かいオーダーメイドは難しいのですが、できる限り対応しています。ヨーロッパにお住まいの方からInstagramを通じてご注文をいただいたこともありました。

ーーヨーロッパから!

長いステイホームの期間に、色々と調べられたのではないかと推測しています。日本の鋏のレベルが高いというのは、ありがたいことに世界の方からも認識していただいています。

この鋏の価値を認めてくれる人に届けたい

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ーーこの先の菊井さんの方向性をお聞かせください。

第一に、自社ブランドの認知を増やしていくことは優先すべきだと考えています。その上で、付加価値の高い仕事をしていきたいですね。

ーー菊井さんの考える付加価値の高い仕事とは、どのような仕事でしょうか。

薄利多売の時代はとうの昔に終わっています。この鋏一挺(鋏の単位、読み方:ちょう)の価値を認めてくれる人にどうやって届けるかを考えると、やはりブログなどでの情報発信や、LINEでお客様のオーダーを細かく聞くことを地道に繰り返していくことだと思います。

ーー発信やお客様対応と鋏作りの両立は大変ではありませんか?

この時代、非対面で色々なことが進められるようになったので、意外にやりやすくなっている気がします。特にローカルでものづくりしている会社にとっては、こんなチャンスはないなと思っています。

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ーーなるほど。社内や従業員の方にまつわる部分で、挑戦したいことなどはありますか?

若い世代を中心に、人を増やしていきたいと考えています。若い世代のスタッフを増やしていくためにも、一般の方にこの仕事を知ってもらうという機会は大事だと日本工芸産地博覧会に出展したときに感じました。ものづくりが好きな方は、是非和歌山へ来てほしいと思います。

ーーそのためにも、外部への発信は続けていきたいですね。

私たちの仕事って、美容師さん用の鋏を作っていると話しても、その仕事があるかどうかすらピンと来ないのが現実なんです。想像できたとしても、工場の機械で大量生産されているのかな?みたいな。かといって、伝統的な工芸品でもないですし、一般の方から見るとわかりづらいんです。金属を扱うものづくりがしたい人でも、なかなか鋏作りには結びつかない・・・。
実は和歌山県に鋏を手作りしている会社があるということを、せめてアンテナを張っている方々にはちゃんと届くように伝えていきたいです。

有限会社菊井鋏製作所
所在地 和歌山県和歌山市小雑賀2-2-31
代表取締役 菊井健一
会社HP 有限会社菊井鋏製作所
Instagram  @kikuiscissors

編集後記

知られざる美容鋏作りの世界で、鋏を作る自分達のことだけではなく、鋏を使う美容師の方の凄さも伝えていきたいと考えている菊井さん。菊井さんによる工房ブログも是非チェックしてみてください。

ものづくりや手作業に携わる方はもちろんのこと、是非、美容師の方々にも菊井さんの想いを届けたいと思う取材でした。

特集第2回は新卒で菊井鋏に入社したという生馬さんにお話をお伺いしました。こちらもご覧ください。

創業60年超の美容鋏メーカーに就職したものづくり女子の現在地 菊井鋏製作所 生馬千加さん(菊井鋏製作所 特集2)




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