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製造業のプロが叶えた、私のホンキの「ものづくり」

製造業未経験ながら、ものづくりの世界に飛び込み、熱い情熱を燃やしている人がいます!

房総ものづくりネットMOVA(もーば)の堀江みきさんです。

堀江さんが今回開発したのは、『マスクするぅ〜』という商品。マスクの顎の部分に取り付ける小さな商品です。一体、なんのための商品なのでしょうか?

実は、秘密はマスクの“内側”にあるんです!
堀江さんのオンラインショップ ちばデコレのお店onepowerより引用

『マスクするぅ〜』は、マスク着用時の息苦しさを軽減するアイテムなんです!

マスクの内側に取り付ける部分に、息の通り道となるパーツがあり、マスク着用時のムレや、息苦しさを軽減することができます。屋外でのウォーキングや、スポーツ、移動時に使用するもので、“するぅ〜”っと、少しだけ息を抜くことができるから、『マスクするぅ〜』と名付けたそうです。

堀江さんのオンラインショップ ちばデコレのお店onepowerより引用

『マスクするぅ〜』は、堀江さんひとりで開発した商品ではありません。
千葉県茂原市を中心に活動する製造業グループ『房総ものづくりネットMOVA』のみなさんと共に作り上げました。

MOVAの発起人・内川毅さん(右奥)が代表を務める昌和プラスチック工業株式会社で
打ち合わせを行うMOVAのみなさん

MOVAは「この先も製造業を続けていくために、何か新しいことをしなきゃいけない」「今までやってこなかったことをやりたい」という製造業経営者たちが集まり、2013年頃に発足しました。その後、自動車のハンドルに掛けて使うタブレットスタンド「ハンドレッド」などオリジナル商品を開発しています。

活動当初は「下請けからの脱却」という思いが強かったMOVA。発足から8年。製造業の垣根を超え、地域の人々との関わりが増えていくうちに「ものづくりしたいけど、やり方がわからない。金額面がネックなんです。」という人々と出会い、MOVAメンバーの思いに変化が現れます。

それは、

「ものづくりしたい“個人”を応援したい。一緒にものづくりがしたい。」

という変化です。製造業のプロと、アイデアを持っている人が繋がり、これまでやってこなかったものづくりにトライする。これが、小ロットでのものづくりを叶える、MOVAの少量生産開発支援です。

堀江さんは、MOVAと出会い、自身のアイデアを形にすることができるチャンスを掴みました。MOVAについて、詳しくは以下のインタビューをご覧ください。

2022年12月現在、MOVAの少量生産開発支援は、2つのコースを用意しています。

房総ものづくりねっともーば公式サイトより引用

堀江さんは『マスクするぅ〜』の製作のため、1000個成形可能な簡易金型を作りました。ものづくりの流れについては、MOVA公式サイトか、こちらの動画をご覧ください。動画ではMOVA発起人のひとり、内川毅さんが代表を務める昌和プラスチック工業株式会社で、少量生産開発支援に取り組む様子が見られます。


作りたい思いが溢れ、止まらない!

堀江みきさんにお話を伺いました。

ーー『マスクするぅ〜』を作ったきっかけを教えてください。

公園を散歩している時に、同じように散歩している人たちを見て「せっかく自然の中を歩いているのに、マスクしながらだと息苦しそう・・・」と思ったことがきっかけです。実際に自分も息苦しさを感じていました。でもなかなか外しづらいという気持ちもわかります。あくまでも、1人で換気の良い屋外を歩いている時に『マスクをしているのに、していない感覚』になれないだろうかと考え、この商品を作りました。

ーー開発はどのようにして進めていきましたか?

最初はタピオカドリンク用ストローを使って、自分なりに試作品を作るところから始めました。それを基に3Dプリンタを使い、試作を重ね、今の形にたどり着きました。

『マスクするぅ〜』中央の白い部分には
自分の好きなシールを貼ることができます

ーータピオカドリンク用ストローですか?

太いストローを曲げて、通気孔が作れないだろうかと思ったんです。いつも、最初は身近なものを使って何か作ってみることから始めています。

ーー試作はどのくらい行いましたか?

なんと8回も試作したんです。3Dプリンタを使って作ったので、低コストで、本格的な試作を行うことができました。マスクに取り付ける位置も、上や左右など色々試して、息がよく抜けるという理由で顎の部分になりました。

『マスクするぅ〜』の金型内部
「小型且つ少額で、チャレンジャーの私にはありがたいです。」と堀江さん

ーーMOVAのメンバーと一緒に作ったのはどの部分でしょうか?

ほぼ全てです。設計図を書くところから、3Dプリンタを使って試作品を作り、金型を作るところまで、MOVAのメンバーに手伝ってもらいました。私は設計図を書くことすらできないので、製造のプロと一緒にものづくりできる環境は、とてもありがたかったです。

これからは、ものづくりに挑む人の窓口になりたい!

ーー本格的なものづくりに取り組んでみて、いかがでしたか?

MOVAは製造業関係の方々ばかりなので、一緒にものづくりをしながら学ぶことばかりでした。開発をしているうちに、私の中で「ここはこんな風にしたい!」と譲れない部分が出てきて、自分でもやってみるんですけど、やっぱりプロの方々には敵わないと思うことが多々ありました。そういう経験もさせてもらい、私自身も成長できたんじゃないかと思います。

ーーこの取り組みを経て、堀江さんの中で新たな道が開けたと感じたことはありますか?

3Dプリンタって、一般人からすると遠い存在ですよね。見たこともありませんでしたし、やりたいと思っても、どこでできるのかもわからない。3Dプリンタはそういう存在でした。

そんな時、MOVAで「3Dプリンタを使って、ものづくりがやりたいんです!」と言ったら、快く受け入れてくれたんです。そういう環境に出会えたことはありがたく、自分の中で新しい道が拓けたと感じました。

ーー例えば、「私も3Dプリンタでものづくりがしてみたい」という方がいらっしゃった場合には、堀江さんのようにものづくりに挑戦することができるのですか?

できます!MOVAで3Dプリンタを使うことになった時に「私が3Dプリンタの勉強をして面倒見ます!」と宣言しました。まずは私が3Dプリンタでのものづくりを覚えて、いずれは今後やってくる人を受け入れられるようになりたいんです。「私でもできるようになったんだから、みんなもできるよ!」と、本当にそう思っています。

2022年12月に開催された「中小企業 新ものづくり・新サービス展」に
『マスクするぅ〜』を始めとしたMOVA発の製品が展示されていました。
みなさんのチームワークが良く、とても賑やかなブースでした

ーーものづくりをしたいけど、始め方がわからないという人にとって、堀江さんはとても心強い存在だと思います。

私もそうだったんですが、ものづくりをやりたいと思っても、始め方がわからないんですよね。でも、最初のハードルを乗り越えたら、世界が広がったんです。もし、ものづくりの世界に飛び込みたいと思っている人がいるなら、きっとあなたの力になれます!

ーー今後の堀江さんの活躍が楽しみです!

『マスクするぅ〜』を含め、これまで作った商品を更に進化させることと、新しい商品開発に力を入れていきたいと思います。「これがあって助かったよ」と言われると、どんどん作りたくなっちゃうんですよね。役に立てるなら、もっともっといろんなものを作りたいですね。

ーー以前のインタビューでも、『ものづくりで人の役に立てたら嬉しい』とおっしゃっていましたよね。

ちょっとしたことでも、困り事を解決できるアイテムを作り、誰かの役に立てたら嬉しいんです。だから、いつも不便なことはないかと、いろんなものや人をよく観察しています。これからもものづくりを楽しんで、いろんなものを作っていこうと思います!

『マスクするぅ〜』は、展示会などで販売する他、ECサイトでも販売中です!

●製造業グループ:房総ものづくりねっとMOVA
     事務局:昌和プラスチック工業株式会社
●ECサイト:ちばデコレのお店onepower

あとがき

「こんなくだらないものだけど、一緒に作ってくれる人がいて、『これがあって助かったよ』と言ってもらえるのが嬉しくて。」と笑顔で話す堀江さん。自分には製造の経験がないからと諦めるのではなく、仲間と共にものづくりに向き合う姿が印象的でした。できることを補い合いながら、ものづくりを楽しむ世界が素敵です。

MOVAの発起人のひとり、昌和プラスチック工業の内川さんは、以前のインタビューで、少量生産開発支援について以下のように述べています。

相談した結果、金型を作ってものづくりしてみたいとなれば、3Dプリンタや小型のNCを使って少量生産用の金型を作ります。数十万円くらいで作れるようにサポートします。個人のスモールビジネスの場合、仮に作ったものが市場ニーズと合わず撤退せざるを得ないとなった際に、引き返せるくらいの金額が良いと思っています。

ものづくりしたい人が相談できる場所にしたい』地域で力を合わせ、共にものづくりに取り組む 房総ものづくりネット【MOVA】 内川毅さん、堀江みきさん
より抜粋

そもそも金型は同じものを大量生産するためのものです。何万個もの成形に耐えられる金型を作るには、時間もお金もかかります。手のひらサイズほどの部品を作る場合でも、数百万円かかるのが一般的です。

堀江さんが作った『マスクするぅ〜』くらい小さいものだと、費用が半分になるかといえば、そういうこともあまりないのではないかと思います。いくら小さくても、金型を作るにはお金がかかるというのが、金型業界で働いていた経験のある私の理解です。

それを数十万円ほどの金額で請け負うというのは、すごいことだと思います。内川さんやMOVAのみなさんとお会いして感じたのは、「誰もやったことない新しいことをやってみたい!」という気持ちです。「ものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクしているぞ!!」というのがビンビン伝わってきます。それがMOVAの少量生産開発支援の根底にはあり、個人のものづくりを応援したいという思いに繋がっている気がしました。(ものづくり新聞 中野涼奈)