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【ものづくりイベントレポート|前編】RENEW・福井県越前鯖江エリア

はじめに

「近所のあの工場、いつも何を作っているのかな……?」
そう思ったことはありませんか?

そんな疑問を楽しく解決出来るのが、RENEW(リニュー)です。
RENEWは、福井県の鯖江市・越前市・越前町という伝統工芸の産地を中心に、年に一度、3日間にわたり開催される持続可能な地域づくりを目指す産業観光イベントです。

イベント参加者は工場見学やものづくりワークショップの他、トークイベントやマーケットなどのコンテンツを楽しむことが出来ます。
RENEW事務局の方々や、参加企業の方々にもインタビューをしましたのでそちらも合わせてチェックしてください!

この特集は前後編に分かれています。前編の今回は、RENEW関連施設や刃物の工場見学、漆器のワークショップの様子についてのレポートをお届けします。

イベント当日の事務局が設置されたうるしの里会館正面入口

越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥(タンス)・越前焼・眼鏡・繊維の7産地の工房が開放され、イベント参加者は工場見学やワークショップを通じたものづくりの作り手とのつながりから、産業への理解を深めることが出来ます。

着々と装飾などの準備が進む会場

2015年から始まり、8年目の開催となったRENEW2022は10月7日(金)から9日(日)までの3日間で開催されました。

さっそくRENEWの体験スタート!

TSUGI|SAVA!STORE

豊富なアイテムが揃うSAVA!STORE。
軒下ではTシャツなどへのプリントワークショップが開催されました。

編集部一行が目的地の「SAVA!STORE」に到着すると、建物には「錦古里漆器店」の文字。決して行先を間違えたわけではありません。この建物こそ我々が目指した場所なのです!

SAVA!STOREはRENEWを運営するデザインスタジオTSUGIが運営するスーベニアショップです。もともと漆器の工場だった場所をリノベーションしてTOURISTOREという複合施設になりました。施設内にはSAVA!STOREの他に漆器工房・観光案内所・TSUGIのオフィス・レンタサイクル拠点があります。

大小様々な商品が並ぶ店内の様子

店内には、眼鏡の端材をアップサイクルしたアクセサリーや木地(漆を塗る前の木材)をブランドしたトレー等個性豊かなものから、伝統的な漆器などの工芸品まで多くの商品が並びます。

色とりどりの漆器が並ぶ

店内で特に目についたのが「箸置きのようなもの」。これは一体なんだろう?

どうやら『箸置きのようなもの』は1枚と数えるらしい

漆器の材料となる漆を使う工程には不純物を取り除くためにろ紙でこす作業が必要となります。この「箸置きのようなもの」は、そのろ紙を利用した商品でした。SAVA!STOREの成り立ちを思わせるすてきなアップサイクル商品です。

【アップサイクル】
本来は捨てられるはずの製品にデザインやアイディアなどで新たな価値を与えて再生させること。

お菓子のようなその形が手に取りたくなる

PARK|中川政七市商店・大日本市鯖江博覧会

PARKは元眼鏡工場をリノベーションしてカフェやオフィスなど多用途な施設として運営されています。

RENEWでは、イベント期間中の3日間限定で中川政七商店とコラボレーションしたショップをオープンしました。
「鯖江から全国への旅」をテーマとし、限定ショップや工芸クイズ、工芸品を屋外で実際に使うことができる工芸キャンプというワークショップなど多様なコンテンツを展開しました。

プライベートでもものづくりや工芸品が大好きな編集部の2人にとっては夢のような空間です!

越前打刃物|刃物の里・増谷刃物製作所

越前市の南方に位置する武生地区では約700年前から刃物製造の技術が脈々と受け継がれています。私たちが訪れたのは越前打刃物振興施設・刃物の里。研修棟・展示棟・工房棟の3つの建物に分かれ、越前打刃物の製造工程や歴史などを学ぶことができます。

展示棟の展示室の入口には切削加工の後をそのまま残したプレートが掲げてあり、それを見つけた私たちは大興奮!一枚の金属板を削った際に出来る波型を強調したデザインは、普段あまり見ることがないからこその"キュン”ポイントです。

きれいな模様です!

工房棟で出会ったのは増谷刃物製作所の職人さん。作業する姿に見とれていると、近くまで招き入れてくださいました。

「娘夫婦が私の跡を継いでくれると言っててね」などと嬉しそうに話しながら作業は進みます。

「今はソルトバス処理をしている所です」
十分に熱せられた、刃物になる前の金属は1メートル離れていてもその熱気が感じられます。取材日は肌寒い気温でしたが、これが真夏の作業となるとその暑さは想像がつきません。

【ソルトバス(塩浴)処理】
塩化ナトリウムなどの塩浴材を加熱融解させたところに品物を入れる熱処理方法。

海外では和食ブームとともに日本製刃物も人気で、2021年の「台所用刃物」輸出額は60億円を超えて20年前の約4倍にも達しています。過去最高を記録しているというデータも出ています。
今後ますます人気が増すであろう日本の刃物から目が離せません。

令和4年5月19日 名古屋税関 貿易統計特集より
https://www.customs.go.jp/nagoya/boueki/tokur0405.pdf

越前漆器|土直漆器 WS体験

職人さんのかっこいい作業を見学していたら、なんだか自分でも挑戦してみたくなってきました。というわけで、ワークショップに参加することにしました!

RENEWでは多くの工場でワークショップを開催していて、箸づくりなどの気軽に参加できるものから本格的な紙漉き、瓦割りなどの独特なものまで揃っています。
中には自分で作った製品をお土産として持ち帰ることもできる体験もあり、定員が埋まってしまうほど人気です。

私たちは土直漆器さんの漆塗りワークショップに参加してきました!

お椀型の看板がかわいらしい

軽く漆のレクチャーを受けた後、まずは色選び。2枚の小皿を塗る漆の色を選びます。今まで、漆は赤と黒の2色しかないと思っていた私はびっくりです。今回はオレンジとグレーに決めました!

4色の中から好きな色を選ぶことができる

実際に塗る器は、キノコのような持ち手をつけた状態からスタートです。皿はすでに職人さんによって下地の漆が塗られています。これから色を塗らなくてもいいのではないかと思うほど、きれいな小皿です。

下地のみが塗られた皿

さっそく漆塗りがスタート!このワークショップでは「拭き漆」という技法を使います。職人の方に教わりながら、まんべんなくグレーの漆で塗った後、濾紙で表面の漆をふき取って仕上げます。ふちの周辺がムラになってしまい、均等に拭きあげるのはとても難しいです。

漆塗り職人によるレクチャーを受けることができます

次に、2枚目の皿にオレンジ色の漆を塗る工程に取り掛かります。1枚目に塗りすぎた反省を活かして、今度は少しずつ漆を塗り重ねていきました。そのあとは同様に拭き取ります。

まんべんなく漆を塗る
ふちの周辺が少しムラになってしまいましたが、それも思い出です

「オレンジ色の漆は他の色に比べてムラなく仕上げるのが難しいんです」と、職人さん。確かに難しい。何度も塗りなおしてようやく仕上がりました。

最後は乾燥して終了。室(むろ)と呼ばれる木のタンスのような場所に1週間置いて完成です。
普段使いには1週間程度の乾燥で問題ないそうですが、実は、漆が完全に乾燥するまでには1年程度の時間が必要なんだとか!

室(むろ)の様子

また、日に当たると色が変化して、角が取れたマイルドな色になります。長く楽しみ続けられる製品は飽きずに愛用できそうです。

後日、自宅に届いた完成品。工場で見るのとは違って日常に溶け込む漆器は飾らない美しさが際立ちます。RENEWが終わって帰宅した後も楽しみが続くのも魅力です!。

完成した2枚の小皿

体験料はRENEW Payで支払い!20%のプレミアム付きデジタル商品券RENEWPay。専用アプリを使用して、バーコードを読み込むだけの支払いはとても簡単でした。

1口5000円で6000円分の買い物ができる

一階のショップではスタンダードな色と形のお椀からカラー漆器まで豊富に揃っています。RENEWがひとつのきっかけになってオープンしたファクトリーショップだそうで工場の方と交流しながら商品を購入できるのが特長です。

明るい店内にたくさんの漆器が並ぶ

今年(2022年)の4月に入社したばかりの職人さんも、自社でファクトリーショップをもつところに魅力を感じて入社を決めたそう。
「自分たちの商品を手に取るお客様を直接見ることができるところが好きです」と言います。

ものメシ!RENEW出張版1

ものメシ!とは「ものづくり新聞取材メシ!」の略。日々製造業のみなさんの取材に励む記者には、ゆく先々でのおいしいグルメが欠かせません。ものメシ!ではそんなグルメなもの新編集部の取材メシを少しだけお伝えします。

今回は「福音堂」さんの『おわん最中』を紹介します。

名物の『おわん最中』と『めがね最中』

包みを開けるとその名のとおりおわん型の最中に甘すぎず食べやすいあんこがぎっしり!当日の気温が低かったこともあり、熱いお茶が欲しくなるようなおいしさでした。

https://vt.tiktok.com/ZSRKg5bMk/

@monoshin_publica1

「ものメシ!」福井県鯖江市 福音堂🫘 名物のおわん最中とメガネ最中最高に美味しかったです✨和菓子には熱いお茶がほしくなりますね〜 #ものづくり新聞 #もの新#ものメシ #ものづくり #RENEW #福井県 #鯖江市 #和菓子 #スイーツ #おわん #メガネ

♬ エジソン (version 1) - 水曜日のカンパネラ


おわん最中の他にはめがね最中という珍しい商品も。さすが、眼鏡のまち鯖江です。

街中いたるところの道路わきにいる「飛び出しちゃん」

福音堂の店先にはおわんを手にした「飛び出しちゃん」もにっこり。RENEW事務局のあるうるしの里会館からも徒歩圏内です。来年のRENEW開催時にはぜひご自身の舌で味わってみてください。

あとがき

RENEW開催地域を歩く中で驚いたのはその統一感。参加工場内はもちろん、街じゅうのいたるところにイベントのキービジュアルに使われている赤いマルが見つかります。まさに街全体がRENEWに侵食されているよう!

窓に貼られた赤いマル

こういった産業観光を体験できるイベントではイベントの参加者が楽しめるだけではなく、製造業同士で交流が深まったり消費者の声を直接聞く機会を得られたり、イベント中のつながりから新たな受注の機会につながるといったメリットがあります。

「イベント参加で工場がきれいになる」といった意外なメリットも。外部の人が工場の中に入ることで、工場内の安全や清潔、自分の仕事の工程について意識が変わるそうです。

最近では、RENEWをはじめとする産業観光イベントが開催されるだけではなく、「工場萌え」という、日中の工業地帯の景観や工場夜景を楽しむという意味の言葉も生まれるなど、身近にあるものづくりを楽しもうという動きが広がっています。ものづくりに触れる機会が広がった今、趣味の一つとしてのものづくりはいかがでしょうか?

後半の記事では瓦工場見学や眼鏡づくりワークショップ、同時開催の特別イベントなどの様子をお伝えします。(ものづくり新聞特派員 村山佑月)