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3Dフードプリンタを活用して、いつでもどこでも誰でも食を楽しめる世界を作りたい Byte Bites株式会社 若杉 亮介さん

ものづくり新聞

編集部は東京都新宿区新大久保を訪れました。向かったのはJR新大久保駅直結のビルにある施設、その名もKimchi, Durian, Cardamom,,,(キムチ,ドリアン,カルダモン,,,)」です。

受付の「K,D,C」は「Kimchi, Durian, Cardamom」のアルファベットの頭文字です。よく見ると揺れている文字は躍動感を表現しています。

名前を見るとどんな場所だろうと不思議に思います。中に入ると綺麗で洗練された空間が広がっていました。こちらは「新しい食文化」と「食を通じた新しいライフスタイル」をテーマにした食の交流施設です。

今回インタビューさせていただいたByte Bites(バイト バイツ)株式会社はこちらのコワーキングスペースに入居されています。

こちらはコワーキングスペースです。奥にはキッチンがあり、様々な調理機器が並んでいました。
コワーキングスペースのすぐ隣にキッチンがあるのは珍しい光景です。

食に携わる人同士が交流することのできるコワーキングスペースの他、商品開発や商品加工を行うことができるファクトリーキッチン、自分の店舗を出店する前のテスト出店やポップアップショップの出店が可能なシェアダイニングなど、食に関わる設備や環境が整っています。

「Kimchi, Durian, Cardamom,,,(キムチ,ドリアン,カルダモン,,,)」という施設名は、各国の食文化の重要拠点である新大久保に集まる古今東西無数の食材(文化)が、個々の個性をそのままに鎮座し混在するカオス・面白さを表現しているそうです。

今回はこちらで、Byte Bites株式会社の代表でデジタルフードデザイナーの若杉 亮介(わかすぎ りょうすけ)さんにお話を伺いました。

Byte Bites株式会社は、デジタルデータを基に食品を出力する機械『3Dフードプリンタ』を活用して食のパーソナライズ化や食感のデザインなど、これまでにない新たな食体験の実現を目指しています。

表現したいことがそのまま表現できる3Dプリンタに惹かれた

ーー3Dプリンタと聞くと、どちらかというと工業系のイメージがあります。

そうですよね。実は私は工業系からのスタートです。大学と大学院ではみなさんがイメージされるようなプラスチック樹脂などの素材で出力される3Dプリンタを用いて、どのような領域で3Dプリンタを活用すると価値が生まれるかを研究していました。

ーー3Dプリンタにはいつ頃から関心を持っていましたか?

3Dプリンタをはじめて見て触れたのは大学に入学してからです。大学は同じキャンパス内に文系の総合政策学部と理系の環境情報学部という2つの学部があったのですが、入学してみると文系・理系に関係なく興味のある研究ができる大学でした。私は文系の学部に入学しましたが、どちらかというと理系っぽいものづくりの道に進みました。

ーーものづくりの道に進みたいと思ったきっかけはありましたか?

どうしてもその大学で学びたくて1浪して入学したので、入学の時点から「やれることはなんでもやりたい」という意識が高く、1年生の頃からコンペや、ものづくり系の大会に出場していました。大会に向けた学生団体にも所属していて、色々なことをやった結果ものづくりって面白いなと思ったのがきっかけです。

ーー幼少期はどんなお子さんでしたか?

機械を分解したり、パソコンをいじったりして遊ぶのが好きな子供でした。中学生くらいからインターネットで色々と調べていじるようになり、ウェブ上に出てくる警告などのポップアップの出し方を調べて自作して遊んでいました。でも手作業でものづくりするのは苦手でした。

ーー図工の授業などはあまり得意ではなかったですか?

図工の授業はめちゃくちゃ苦手でした。手作業で何かを作るのが苦手で、同級生が隣でちゃんとしたものを作っているのを見て羨ましく思っていました。単純にノコギリで板を切ることもうまくできなくて、なんで自分はこんなにできないんだろうと。だからこそ、手先の器用さが影響しない3Dプリンタに惹かれたのだと思います。3Dプリンタは自分の表現したいことをそのまま表現できるのが良いなと思いました。

ーー大学では具体的にはどのような研究をされていたのですか?

大学3年生までは切削機やレーザーカッターなど3Dプリンタ以外の機械にも触れ、ものづくりの知識を深めていました。大学4年生の頃に同じ大学の看護医療学部と共同でガーグルベースン(寝たままの姿勢でうがいした水などを受けるのに使うカーブ型の洗面器)を開発しました。既存のガーグルベースンの輪郭は平均的な形状になっているので、頬がこけている人だと形が合わなかったり、素材が固くて頬に当たると痛かったりします。そこで、患者さんの顔の形を基にガーグルベースンの形状をモデリングして3Dプリンタで出力しました。素材も柔らかいものを使用し皮膚に優しく使いやすい製品にしました。

3Dプリンタで製作したガーグルベースン

ーーそのガーグルベースンは実際に患者さんに使ってもらったのですか?

実際に何名かの患者さんに使っていただき、様々な意見をいただきました。はじめはうまく形状が出力できず、水がこぼれてしまい患者さんが不安になってしまったことがありました。この経験から誰も傷付けないデザインを意識し始めました。患者さんの顔をインプットすると、どんな形状のガーグルベースンが適しているのかが自動的にアウトプットされるツールも開発しました。それ以前は自分の作りたいものを3Dプリンタで作ることが多かったのですが、誰かのために作るというものづくりの価値や面白さを感じました。

ーーところで、若杉さんの趣味は何でしょうか?

サウナが大好きで、ほとんど毎日サウナ通いをしています。サウナのためにジムを契約したくらいです。オフィスの近くにお気に入りのサウナを見つけて最近はよくそこに通っています。

ーー仕事終わりに行かれるのですか?

仕事終わりに行くこともありますが、仕事の前と後で1日2回のパターンも結構あります(笑)。自分の頭の中で考えていることを整理できますし、すっきりするのも好きなんです。いつかは自分のプライベートサウナを作りたいと思っています。

ーーデジタルフードデザイナーという肩書きの若杉さんの“食”についてのこだわりも気になります。好きな食べ物を教えてください。

甘いものがめちゃくちゃ好きです。パフェなどは結構色々なところに食べに行っていますね。渋谷区周辺のお店に行くことが多いです。

ーー渋谷区はきっとパフェ激戦区ですよね。

そうですね。新作が出ると必ず食べに行くお気に入りの店もあります。パフェに限らず美味しいものはなんでも食べに行きたいタイプで、Instagramなどで情報をキャッチしたらすぐに出掛けたくなります。

まだまだ未開拓な「食」×3Dフードプリンタ

ーー起業のきっかけを教えてください。

大学院を卒業後、起業をする前に教育関係の企業に就職しました。その会社はものづくり教室を運営していて、そこで3Dプリンタを使った教育などを担当していました。その中で、例えば『3Dプリンタを子供の教育に活用する』などという領域や分野を横断して3Dプリンタの可能性を考えることに興味を持ち、もっと3Dプリンタが活かせる分野はないかと考えるようになりました。学生時代からいつか3Dプリンタを軸に仕事がしたいと思っていたこともあり起業しました。

ーー「食」の分野に注目した理由をお聞かせください。

ものづくりや製造業における色々な分野でデジタル化が進んでいますが、「食」は他の領域に比べてまだデジタル化が進んでいないと感じていました。大学院生の頃に、3Dフードプリンタで食感をデザインするという今の事業に繋がるような研究をしていたこともあり、これから開拓しがいがある「食」の領域の中で3Dフードプリンタをもっと活躍させることができるのではないかと思いました。

ーー3Dフードプリンタとはどのようなものか教えてください。

基本的な機能は、プラスチック樹脂素材などを使う一般的な3Dプリンタとそう変わりはありません。材料はある程度水分があって少し粘性があるものが適していますが、どんな素材が材料に適しているのかは未知数なところも多くあります。この機械を使ってどんなことができるのか、素材や製法の研究を自社で行っています。

3Dフードプリンタ

ーー材料の研究もされているのですね。

一般的な3Dプリンタだと材料カタログを見て材料を買うということがあると思いますが、3Dフードプリンタの場合、材料カタログはありません。素材はスーパーなどで買うことが多いです。

市販のマッシュポテトの粉末に入れる水の配合を少し変えるだけでも表現が変わります。そこに別の粉末や液体を混ぜるとまた変わってきます。自分たちで材料から考えなければいけない苦労はありますが、調整できることで自由に追求できるのでやりやすいことも結構あります。

3Dフードプリンタで出力している様子を見せていただきました。

粉末のマッシュポテトの素に水を加え練った素材を、筒状のボトルに詰め込みます。
ボトルは扉の裏側にセットします。こちらの3Dフードプリンタは素材を5つまでセットすることができます。
データを選択して出力をはじめます。今回は内蔵されているデータを使って出力の様子を見せていただきました。
一層ずつ出力されていきます。出力と同時にマッシュポテトのいい匂いが漂ってきました。

出力の様子です。是非ご覧ください。(無音です。)

完成です。この素材と形状なら5,6分程度で出力できるそうです。

ーー水や粉末の配合が難しそうです。

難しいですね。材料、素材に関する数値化ができておらず、どんな素材をどのように配合にすれば安定した出力ができるか試行錯誤しています。

ーー「食」×3Dフードプリンタでどのような可能性があると考えていますか?現時点でのお考えを教えてください。

まだ仮説ではありますが、形によって食感をデザインできるのではないかと考えています。例えばチョコレートなのにふわふわした食感だったら面白いと思いませんか?あと、3Dフードプリンタを活用することで、栄養や味をパーソナライズすることもできると考えています。

大学時代、3Dプリンタを使ってわざと壊れる設計のデザインを作っていました。イメージしにくいかもしれませんが、亀裂が入ったデザインや剥がすことができるデザインです。時を経て起業するとなった時に当時のことを踏まえて考えると「食べる」ということも一種の破壊行為だなと思ったんです。

若杉さんが大学時代にデザインし3Dプリンタで作った照明器具 
亀裂が入っており、たまごの殻のように手で割り明るさを調整できるデザイン

ーーなるほど。確かに、噛み砕いたり飲み込んだりすることもある意味破壊といえるかもしれません。

そうですよね。だから、大学時代に3Dプリンタでデザインしてきたことを、これからは3Dフードプリンタを使って「食」の分野でもできるのではないかと考えています。

どこでも、だれでも食を楽しめるように

ーー現在は、3Dフードプリンタを活用してどのような事業をしていますか?

まず1つ目が「形によって食感はデザインできる」という自分の仮説に基づいた事業です。例えば、形によってチョコレートの食感を変える研究など、同じ素材でも形によって食べた時の印象が変わるのかなどを研究しています。今年(2022年)は3Dフードプリンタを使って様々な形状のチョコレートを作り、一般の方々向けに販売するポップアップショップを開催しました。過去にも同様のコンセプトでフードイベントを開催しています。

2022年5月に東急ハンズ新宿店で開催された 3Dフードプリントチョコレートショップの様子
3Dフードプリンタ製のチョコレート 脆さや規則性など珍しい項目もあります。


イベントや事業を通して見えてきた3Dフードプリンティングの現在地点や、食のパーソナライゼーションなどについて、若杉さんがゲスト講師として講演をするサマースクールが開催されます。

持続可能な未来のデザインを実践的に学ぶ5日間のサマースクール
「School of Food Futures」
日程 2022年8月28日-9月2日
場所 京都工芸繊維大学(一部オンライン開催のプログラムあり)
詳しくはこちらから

そして2つ目は「パーソナライゼーション(顧客ひとりひとりに合わせて商品やサービスを提供すること)」に着目した事業です。例えばひとりひとりに合わせた素材を使った栄養食の研究開発などを行っています。実際にメーカーさんと共同で開発中のものもあります。

ーー若杉さんは事業を通してどのようなことを実現したいと考えていますか?

私たちが目指しているのは「いつでも・どこでも・だれでも食を楽しめる社会づくり」です。
ひとつの食卓を囲んで周りと同じものを食べたくても、宗教の理由やアレルギーなど様々な事情から周りと同じ食事が食べられない人がいます。3Dフードプリンタを活用し、本人の望む食材で周りと同じような見た目の食事を作り出すことができれば、疎外感を感じずにみんなで食事を楽しむことができます。3Dフードプリンタを通して、世界中どこでもどんな人でも食を楽しむことができる世界を作りたいです。

ーー食事の見た目の話が出ましたが、3Dフードプリンタで出力された食べ物の見た目に関する工夫などはありますか?

まだ研究途中ではありますが、食べ物の形や見た目によって受ける印象が変わるかという研究もしています。例えば、安全そうに見える食べ物と反対に危険そうに見える食べ物にはどんな見た目の違いがあるのか、美味しそうな見た目の食べ物を3Dフードプリンタで出力するにはどうすればいいのかなどを追求しています。
あとは、美味しそうな見た目とはまた違う軸で、例えば「不思議だ」と感じる食体験ができる形や見た目があるのではないかとも思っています。今まで見たことないようなものも作ってみたいです。

ーー「不思議だ」と感じる食体験ですか。例えばどのようなことをイメージしていますか?

全て同じ素材で作っているのに形を変えるだけで、ハンバーガーのような見た目と食感にもなるし、たこ焼きのようなとろっとした食感にもなるようなイメージです。形の違いだけで食感の違いを生み出すというところをもっと深堀りしていきたいです。

左奥にいらっしゃるのはインターンの栃木 盛宇(とちぎ もりたか)さんです。栃木さんは専門学校で3Dプリンタに興味を持ち、現在は若杉さんと共に研究に取り組んでいるそうです。

ーー3Dフードプリンタで出力された食べ物は、そのまま食べるだけではなく食材の一つとして調理するということも想定していますか?

そういった使い方もできます。出力された食べ物に調理を加えることによって、隣の人の食べ物と素材は違うけど見た目は一緒ということが実現できます。

いま注目しているのは和菓子!

ーー3Dフードプリンタを扱う中で難しかったことはありますか?

3Dフードプリンタで使える素材、食材の開拓が一番難しいです。トライアンドエラーを繰り返しながら安定的に出力できる素材を探していますが、まだノウハウも少ない分野なので調べたり聞いたりすることもあまりできません。トラブルがあった時も自分たちで解決するしかなく難しいなと感じています。

個人利用している人はまだほとんどいないそうですが、ここ数年で3Dフードプリンタは小型家電のようにスタイリッシュで家の中に馴染むデザインが増えたといいます。

ーースーパーや飲食店で「これ使えそうだな」という目線で見ることもありますか?

ありますね。最近は和菓子と3Dフードプリンタは相性が良いのではないかと考えています。和菓子は素材がシンプルであることが多いため、ひとつの素材の中で色々なバリエーションが生み出せそうだなと感じました。あと、和菓子は季節感を大事にする文化もあると思うので、形によって新しい情報を和菓子にプラスすることもできるかもしれないと思いました。まだまだアイデア段階でどんなふうになるかわかりませんが、考えるとワクワクします。

ーー起業したことによって考え方など変化した部分はありますか?

大学院を卒業した頃は、3Dフードプリンタにどんなポテンシャルがあるのかまだあまりわかっていませんでした。起業する時に、3Dフードプリンタの価値やどんな場面で活用できるのかを深く考えはじめたことで、視座が高まったと感じています。手探りのところもありますが、自社内での研究や他社様との協業によって、3Dフードプリンタの価値をもっと追求していきたいと思います。

ーー今後の目標を教えてください。

「形によって食感を変える」というテーマに関して、いずれきちんと体系化したいと考えています。今は社内で実験、研究している段階で試行錯誤の日々ですが、数値や条件などコントロールして自社の強みにしていきたいです。

ーー最後に、若杉さんの描く未来を教えてください。

3Dフードプリンタによって調理がデータ化されることで、素材と機材さえあれば遠く離れた人とでも同じものを食べるという共有体験や、アレルギーや食生活に配慮しながらもおいしく食べることができます。新たな食体験を通して、誰もが「食」を楽しめる世界を作りたいです。

Byte Bites株式会社
所在地 東京都新宿区百人町1丁目10−15 JR新大久保駅ビル4F
代表 若杉 亮介
会社HP  Byte Bites


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