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タイ製造業事情:バンコック銀行で、企業のタイ進出をサポート 商工中金 鈴木宏大さん


タイにおける製造業の現状を取材し、日本の中小ものづくり企業の方々に発信するシリーズです。

タイ進出を検討する際に、銀行への相談は欠かせません。株式会社商工組合中央金庫(以下、商工中金)は、中小企業を専門に支援している銀行で、日本全国の7万社近くの中小企業と取引があります。タイのバンコクにも拠点を構えており、タイへ進出する際の心強い味方です。

以前、商工中金バンコク駐在員事務所所長の川上博之さんにインタビューさせていただきました。今回は、現在バンコック銀行に出向されている鈴木宏大(すずき こうた)さんにお話を伺いました。

生活の中で身につけていったタイ語

ーー鈴木さんはバンコクに来てどのくらいですか?

バンコクに着任したのが2018年の12月末ですので、3年8ヶ月ほどになります。(取材時2022年9月)着任時は新型コロナ禍前でしたので、日本からバンコクに行く時もスムーズでした。

ーー2020年頃はバンコクも新型コロナウイルスが蔓延していたと思いますが、当時はどのような暮らしでしたか?

2020年4月頃は、夜間の外出禁止やレストランの営業停止などの措置が取られました。その間の仕事は在宅ワークでしたが、銀行の業務はセキュリティの問題で外部に持ち出せない資料が多く、思うような営業活動はできませんでした。

ーー今は規制もなくなり、ある程度は以前の生活に戻っているのではないかと思います。3年住んでみた感想はいかがですか?

バンコクの暮らしは結構気に入っています。食べ物も美味しいですし、苦手なパクチーはオーダーの時に「パクチーは入れないでください」とタイ語でお願いできるようになりました。タイはパクチー入りの料理が多いですが、レストランは可能な限りパクチー抜きの要望に対応してくれます。

ーータイ語はどうやって覚えたのですか?

最初の3ヶ月くらいは、週に1回タイ語の先生のところへ通いレッスンを受けていました。あとはなんとなく話しているうちに少しずつ覚えていきました。日本人相手に配慮してくれるタイの方とは、それなりに会話できるようになりました。

ーータイに来てはじめたことや、続けている趣味などはありますか?

休日はゴルフを楽しんでいることが多いです。あとは、タイに来てから、日本ではなかなか挑戦できなかったダイビングの上級ライセンスを取得しました。タイにはタオ島という世界有数の素晴らしいダイビングスポットがあります。タイは雨季と乾季が半年ずつあるので、その時の天候に合わせていろんな場所でダイビングしています。

『商工中金としての仕事』をするためにバンコック銀行に出向中

ーー日本にいた頃は、どのような仕事をしておられたのでしょうか?

2011年に商工中金に入庫し、最初の4年半は上野支店で足立区や葛飾区周辺の担当をしておりました。そこから八重洲本店の国際部という部署に移り、2019年の初頭にバンコック銀行に出向となりました。

ーー国際部ではどんな仕事をされていたのでしょうか?

商工中金は全国に100店舗あり、基本的には県や市などのエリアごとにお客様をサポートしています。ですが、例えばタイに進出したいというお客様がいた場合、国際部が同行訪問等でサポートすることでお客様により専門的なご提案やアドバイスをすることができます。3年くらいそのような仕事をしていました。

ーー鈴木さんは現在バンコック銀行に出向されていると伺いました。着任当初からですか?

はい、着任当初からバンコック銀行に出向しています。商工中金からは私を含めて2名がバンコック銀行に出向しています。他の日本の銀行の方々を含めると、日本人は約20名ほどバンコック銀行に出向しています。

タイ以外にも様々な国の銀行を提携しています
商工中金公式ホームページより引用

ーーどのような理由からバンコック銀行に出向しているのでしょうか?

タイ・バンコクで、お客様に融資などの銀行サービスをご提供するためです。例えば、日本のメガバンクはバンコクに支店をお持ちだったり、タイにグループ銀行があったりするので出向という形は取りません。
一方、商工中金はタイに支店がないので、タイで融資や預金など銀行業務をすることができません。商工中金の場合、バンコック銀行と提携することで、バンコック銀行を通して銀行サービスをお客様にご提供しているということになります。

ーータイで事業を始めるために融資してほしいと考えた場合、どのような対応をされるのですか?

ややこしいですが、商工中金のお客様を、私がバンコック銀行の職員として対応することになります。ちなみに、名刺には『バンコック銀行 鈴木宏大』と書いてあります。

ーー名刺を見ただけだと、本来どこの銀行の方かはわからないのですね。

そうですね。私はいまバンコック銀行日系企業部に所属しているのですが、トップが日本人で、日本人職員も約20名いるので日系企業のオフィスのようです。タイ人職員も含めて日系企業部は約80名ほどで構成されています。

ーー現時点でタイに進出されている企業は、約5800社というデータがあります。(タイ日系企業進出同行調査より)新規で進出される方は減少傾向ながら、既に進出されている方々だけでも相当な数ですね。

統計を取ったわけではないですが、2013年頃からタイ政府の補助金による後押しもあって、タイの自動車産業が急成長し、そのタイミングでタイに進出される方が非常に多くいらっしゃいました。それから10年ほど経ち、コロナ禍をある程度乗り越え、現在は建物や設備の更新や、規模の拡大にあたってのご相談が数多くあります。

ーー確かに、10年ほど経つと機械や設備の更新を検討したくなる頃ですね。

タイに進出する時に、日本の工場から中古機械を譲り受けているケースも多いんです。受注があり、生産が安定しているお客様は、更なる生産効率を求めて新しい機械を検討されていますね。

ーー鈴木さんのお客様は自動車産業など製造業が多いですか?

そうですね、製造業が多いです。日本の商工中金全体でいうと、お客様全体の7割ほどが自動車や電気関係の製造業です。私の担当しているバンコクのエリアだと、卸売商社やサービス業、飲食業のお客様もいらっしゃいます。

ーー以前インタビューした、バンコク駐在員事務所所長の川上博之さんの話にもありましたが、今やコスト削減目的でタイに進出される方はほとんどいらっしゃらないと思います。とはいえ、東南アジアに進出したいと考えた時に、タイという国はやはり進出しやすい国ではないでしょうか。

実際に赴任される方にとっては、住みやすく素晴らしい環境だと思います。企業にとっては、タイ市場に参入し、勝てるものがあるかが大きなポイントだと思います。タイは既に成熟している市場も多いです。例えば、日本で開発した新しい技術をタイでも役立てたいという方などは、向いているのではないかと思います。

ーー一方で、タイから撤退したいというご相談もありますか?

ありますね。撤退、精算にあたっても一定の時間とコストが必要で、長いと2、3年ほどかけて行います。例えば、BOI(タイ資委員会:Board of Investment)からの認証を受けている企業の場合、タイの投資奨励法に基づき色々な優遇制度を受けています。BOI認証を受けている企業が撤退となった場合は、提出する書類や手続きが増えます。そのため、撤退とひとことで言ってもその手続きは複雑なんです。

タイに進出した企業も悩んでいる 人材の課題

ーー仕事をしていて面白い、楽しいと感じるのはどんな時ですか?

私自身はずっと文系で、工業系やものづくりの知識はありませんでしたが、わからないからこそ、工場を見学させていただくと新鮮で面白いです。色々な業界のお客様がいらっしゃいますし、銀行の場合は経営者の方とお話しすることが多いので、非常に勉強になります。

ーー実際に工場見学に行かれた中で、印象深い企業さんはありますか?

バンコクに来てからだと、デニム生地を生産されているメーカーさんが印象深いです。インディゴで生地を染める工程を見せていただき、そうやってデニムが作られていることは知らなかったので驚きでした。あとは、冷凍食品製造工場も面白かったです。低温の風を食品に当てて急速冷凍する様子など、普段は見ることのできない光景を見学させていただき良い経験でした。

ーータイに進出されている方々の課題といえば、どんなことが挙げられるでしょうか?

皆さん一様におっしゃっておられるのは、人材についての課題です。深刻なのは経営者の後継者不足です。長い方だとタイに進出して20年近く経っているという方もいらっしゃいます。そろそろ世代交代を考える時期に来ていても、後継者が見つからないと悩まれている方が多いです。

ーータイに赴任する人、したい人がなかなかいないという背景があるのでしょうか?

それもあると思いますし、そもそも人材が見つからないということもあるようです。はじめてタイに進出する時に赴任されている方は、絶対に海外で働きたいと思われている方も多いのですが、もしかすると今は全体的にそういう方が減ってきているのかもしれません。悩まれながら現役を続けていらっしゃる方が多いように感じます。

あとは、タイ現地のスタッフを採用し、育成していくことに対する課題です。将来的には現地のスタッフを育てて、ある程度任せていきたいと考えていても、なかなか難しいのが現実です。言葉や文化の問題もあり、簡単なことではないですが、皆さんこれから取り組まなければいけないと考えておられます。

ーー鈴木さんのこれからの目標や、理想を教えてください。

新型コロナ禍を乗り越え、きっとこれからまた事業拡大や投資を増やそうと考える方も多くなると予想しています。そこは銀行員として、しっかりサポートして応援していきたいです。
その一方で、仕入れ価格高騰などで悩まれている方もいらっしゃいます。本当にいいものづくりをしていても、外的な要因で打撃を受けている方が大多数だと思います。私は、そういう時に頼りにしていただくために銀行があるのかなと思うんです。苦しい原因を共にしっかり見極めて、お客様と一緒になって課題解決をしていきたいです。