女性でも鉄工所で活躍できる 自分たちが欲しいものを形に
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女性でも鉄工所で活躍できる 自分たちが欲しいものを形に

ものづくり新聞

町工場が挑むB2Cとは、これまでB2B中心だった町工場(中小製造業)が、自社製品を作り、一般消費者に向けて販売すること。様々な理由からB2Cに注目し、製品開発や販売方法、ブランディングなど新たに挑戦している方々を取材しました。これからB2Cに取り組もうとしている製造業の方や、行き詰まり感や課題を感じている方々のヒントになれば幸いです。詳しくは以下の記事をご覧ください。(ものづくり新聞 記者 中野涼奈)

株式会社松長鐵工 松葉真由美さん

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株式会社松長鐵工は宮崎県延岡市で主に精密機械部品製造、アーク溶射加工を行っています。今回は経理・業務担当の松葉真由美(まつば まゆみ)さんにお話をお伺いしました。

汎用旋盤1台からスタート

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松長鐵工は昭和54年に汎用旋盤という工作機械を用いた加工業からスタートし、現在はアーク溶射専用の工場も保有しています。溶射とは、2本の溶射材料(金属ワイヤなど)の先端でアーク放電を発生させ、6000度の高温で瞬時に金属材料を溶融し、エアガンに乗せ部品に吹き付け、皮膜を積層状に形成させていく表面処理加工です。部品同士を熱で溶かして接合する溶接とは異なります。

「創業からしばらくの間は汎用旋盤加工が中心でした。徐々に機械を導入し、穴あけ加工やフライス加工、ワイヤー加工などどのような素材でも幅広く加工するようになりました。
アーク溶射はお取引先様の強い要望により、5年前から新事業として取り組んでいます。溶射加工はメンテナンスや嵌合(かんごう:機械の部品同士がはまり合っている部分)部磨耗の修理再生などの保全業務によく使われます。

汎用旋盤1台からスタートした会社ですが、徐々に加工の幅を増やしていき今ではどのような素材の加工でも受け付けています。」

悩みながらも入社を決意

代表取締役社長である松長今朝男(まつなが けさお)さんは松葉さんのお父様です。松葉さんご夫婦、松葉さんの娘さん、松葉さんの妹さんご夫婦も松長鐵工で働いているそうです。松葉さんは2022年で入社28年目を迎えるそうですが、家業に入りたいという思いはあまりなかったといいます。

昔の工場は油汚れもひどく雑然としていて、ここで一日中過ごしたいとは到底思えないような環境であまり好きではありませんでした。入社当時私は結婚したばかりで幼い子供もいましたので、実家なら子供の面倒を見つつ仕事ができると思い週末に手伝いをしていました。夫は当時別の仕事に就いていましたが、私と一緒に週末に手伝うようになり、2年ほど経った時に父から“新しくマシニングセンタを導入するけどどうするか?”と、威圧的に言われました。悩みながらも夫婦揃って正式に入社を決意したのですが・・・実は入社することを見越して既にマシニングセンタを発注していたことが後々判明しました。笑 

マシニングセンタとは切削加工で使用される工作機械のことです。フライス加工や穴あけ加工など多種類の加工を連続で行うことができます。

「夫はその新しく導入したマシニングセンタ担当として入社しました。元々製造業の経験がなかったので失敗も多く、苦しかったと思います。今では松長鐵工のエースとして第一線で活躍してくれています。夫とは24時間365日ほぼ一緒にいますが、性格が正反対でバランスが取れており、後腐れない喧嘩ができる間柄なので、思ったことはきちんと伝えながらうまくやっていけています。」

鉄工所っぽくない新工場を設立

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松長鐵工は2021年5月に新工場に移転しました。新工場のテーマは“鉄工所っぽくない工場”です。それまで使っていた工場は現在アーク溶射工場となっています。

「新工場は旧工場の約3倍の広さで、室温は22度前後に温度管理を徹底しています。それまではいわゆる昔ながらの町工場で、整理整頓や5Sどころではありませんでした。でも、私は鉄工所でも綺麗を保つことはできるし、おしゃれな雰囲気を作ることはできると思っていたんです。新工場を設立することになった時に、鉄工所っぽくない鉄工所にしたいと提案しました。」

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*社員休憩室

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*普段松葉さんがいらっしゃる事務所

松葉さんは工場や事務所、品質管理・検査担当の妹さんは検査室の内装やインテリアを担当しました。工場を作る段階から綺麗に保つための工夫を施したことで、従業員の皆さんの意識にも変化が見られたといいます。

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「工場の床色はあえて薄い黄色にし、汚れが目立つようにしました。週末には30分間かけて床に膝をつきながら拭き掃除も行っています。新工場を設立してからは、従業員みんなが綺麗な状態を保つために汚れたら自然と掃除するようになりました。従業員の日頃の取り組みのおかげで、来社したお客様方は、土足禁止の工場だと勘違いしてしまうくらいです。
安全で快適になったことで、従業員の方々から更に工場を良くするアイデアが出るようにもなりました。そういった提案があったときはすぐ行動に移すようにしています。」

社長であるお父様とは親子ゆえの喧嘩もあったそうです。

「鉄工所とはこうあるべきだという考えと、新しい鉄工所を作ってみたいという考えが衝突したこともありました。それ以外でもぶつかり合い喧嘩したことは何度もあります。でもお互い会社のことを本気で考えているからこそ起きる衝突なので、後腐れは一切ないですね。」

初の女性加工担当者

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2022年3月現在松長鐵工の従業員数は10名です。男性社員が多かったそうですが、1年半ほど前に現場で旋盤をやりたいという女性社員が入社しました。

「彼女は以前も製造業に従事していましたが汎用旋盤をやる環境がなかったそうです。でもどうしても汎用旋盤をやりたいとポリテクセンター(職業能力開発促進センター)で研修し、弊社に入社してくれました。今では戦力として活躍してくれていて、彼女の明るく前向きに取り組む姿勢に会社の雰囲気も明るくなりました。私も事務作業を担当しながら溶接を勉強していて、彼女の存在はすごく良い刺激になります。」

入社した時期はちょうど新型コロナウイルスで売上が落ち込んでいた時期だったといいますが、松葉さんを含め松長鐵工の方々は前向きに捉えていました。

「女性で汎用旋盤をやりたいという方は初めてでしたし、コロナ禍で受注も落ち込んでいて不安もありました。でも、その頃には新工場設立の計画もあり、新しい工場で活躍してほしいという思いから採用しました。」

自分たちの欲しいものを形にしたい

2020年12月に松長鐵工は自社ブランド 『Iron&Wood  M's Maker(エムズメーカー)』を立ち上げました。開発は松葉さんを中心に、娘さんや妹さんなど社内の女性が中心となっています。

「以前から自分の好きなものを作れたらいいなとずっと思っていました。しかし、環境は揃っているけど本業が忙しく手が回りませんでした。2020年のコロナ禍で受注が落ち込んだ時に、先々の不安はありましたがせっかく時間ができたんだからやってみようと前向きに考えました。

はじめて形にしたのは『CULOVER(クローバー)』という非接触型アシストツールです。指先が触れる公共の場で指先の代わりとなるツールのことで、素材は殺菌効果のある純銅にこだわりました。

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「加工は現場担当者に教わったり、手伝ってもらいながらなんとか形にしました。販売に至ったのはCULOVERが第一号ですが、それ以前に商談時にプレゼントする目的でクローバー型のクリップを作っていました。それが好評だったこともあり、次もクローバーのモチーフにしようと考えこのアシストツールを開発しました。」

その後も、自分たちが欲しいものを作るというテーマを一貫させながら、星形シェルフや星形ブックスタンドを開発しました。

松長鐵工のことを知ってもらいたい

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自分たちが欲しいものを作ってみようとはじめた開発ですが、ブランドとして外部に発信するにあたり、縁の下の力持ちである自分たちのことを知ってもらいたいという思いもあったそうです。

「宮崎県延岡市で創業して43年になりますが、市民の方々にもあまり知られていない会社でした。実は身近なものを作る機械の部品を作っていて、様々な技術があるのにそれを伝える手段もありませんでした。

松長鐵工はこんなことができる会社だということを知ってもらう手段の一つとして自社製品を捉えています。ですので、自分たちでできる範囲で開発するというのが今のスタンスです。」

狙うのは万人受けではないと話す松葉さん。自分たちが欲しいと思ったものを信じて開発し、一人でも共感してくれる人がいたら嬉しいといいます。

「デザインや開発のプロではないので、万人にヒットする製品を作るのは難しいと思っています。自分たちが欲しいと思うものを何度も考えて開発し、本当に好きなものを作り、それを見た人からいいね!と言っていただけたら本当に嬉しいです。」

自社ブランドも本気で取り組む

松長鐵工は、町工場プロダクツの一員として東京インターナショナル・ギフト・ショーへの出展を経験されています。(町工場プロダクツとは、ものづくりコミュニティ“MAKERS LINK”から派生した、自社製品の開発/発表/販売を通じ、町工場の活性化を目的とした活動チーム)

「Twitterで声を掛けていただき出展することにしました。自分たちの考えで作った製品がどう評価されるのか見てみたいという気持ちが大きかったです。

はじめて参加したので戸惑いもあり、ものすごく疲れたのが本音です。笑 でも様々な方が来場されていて、人が集まるということは色々なチャンスもあると実感しました。交流するのも楽しかったですし、こんなもの作ってくれないかというOEM生産のご相談もいただきました。思い切って都市部の展示会に出る経験も大事だと感じました。」

展示会に出展したことで様々な反応をもらい、開発や販売に繋げていきたい一方で、本業とのバランスには課題を感じているといいます。

「本業はおろそかにできませんが、自社製品の開発も少しずつ形になってきたのでこちらも仕事として時間確保をしなければと考えています。認知を広げていくためには地元の方々と交流したり、SNSなどで発信をしていきたいですが、それらの方法を探ったり時間を確保していくのが今の課題です。」

挑戦を続け魅力的な会社にしたい

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松長鐵工をどんな会社にしていきたいか、松葉さんの目指すところを伺いました。

魅力ある鉄工所、可能性を秘めた町工場でありたいと思っています。宮崎県延岡市には同業者が多いのですが、自社製品開発に取り組んでいる会社さんはほとんどいません。他の会社がしていないことに挑戦し続けたいです。
そして、そんな松長鐵工に魅力を感じる従業員と共に、造り出せる素晴らしさに誇りを持ち、基盤となる弊社の技術を次の世代に繋げていきたいです。」

また、これまでの経験から鉄工所でも女性の活躍の場は作ることができるといいます。

「製造業は現場で活躍する男性が多いイメージでしたが、女性でも活躍できると実感しました。女性からの目線も大事だと思います。どちらかだけの世界になるより、お互いの良いところを活かしていきたいです。」

最後に自社製品について目標を伺いました。

「製品に関してはクラウドファンディングに挑戦し、世の中の皆さんの反応や声を社員と共有し、楽しんでいきたいです。
でも届けたいのは製品だけじゃないんです。当然大変なこともありますが、難しい加工に挑戦する面白さや、楽しくものづくりができる環境があることを伝えて、新しい仲間を募集したいと思っています。製品を通して松長鐵工の中身を伝えられたら嬉しいです。」

株式会社松長鐵工
本社所在地 宮崎県延岡市行縢町1157番地
会社HP 株式会社松長鐵工
自社ECサイト Iron&Wood  Maker


編集後記

“自分たちが欲しいものを形にする”という考え方は、大きな原動力になると感じました。松葉さんの根本にあるその原動力が、様々な製品開発に繋がっています。そして更に、会社をもっと良くしていくためには何ができるだろう?というポジティブな発想へ繋がっていくのだと思います。

取材後、何気ないやりとりの中で松葉さんがこぼした「もっと若いうちに、ものづくりや家業の楽しさに気付けていれば・・・といつも思います。まだまだ現役で頑張ります!」という言葉が印象的でした。

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