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【レポート】川口市からものづくりに新たな風を吹き込む「川口まちこうば芸術祭2022」

今回は「川口まちこうば芸術祭2022」のイベントレポートをお届けします!

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「川口まちこうば芸術祭2022」とは

2022年3月16日(水)~21日(月)に埼玉県川口市立アートギャラリー・アトリアにて「川口まちこうば芸術祭2022」が開催されました。(主催:川口商工会議所)

川口まちこうば芸術祭は、工場見学では伝えきれない「ものづくりの魅力」を発信するために、川口のまちこうば5社とアーティスト・デザイナーがコラボレーションしたプロジェクトで、デザインと技術が融合した新たな製品・作品がいくつも展示されました。


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今回、まちこうばの一社である株式会社栗原精機の栗原稔(くりはらみのる)さんに、栗原さんが関わった展示物を中心にインタビューをしてまいりました。

開催にいたるまでの経緯

川口まちこうば芸術祭は、2018年の東京インターナショナル・ギフトショーの際に、(川口市の)商工会議所ブースで栗原さんや商工会議所の方々で「アーティストとまちこうばをつなぐ夢」を語り合ったことがきっかけで始まりました。いざ開催に向け動きはじめたところ、コロナウイルスの感染拡大により企画は一時中止。しかし実現したい想いを捨てきれずコロナが落ち着き始めたところで再始動し、慣れないオンラインツールでのコミュニケーションを主体にアーティスト・デザイナーとまちこうば5社で数十回打合せを重ね、開催に至りました。

開催への想い

「今回のまちこうば5社は工法が異なる専門家集団で結成しています。ものづくりの経験がないデザイナーさんでも、川口市に相談してもらえば我々ものづくりの専門家が力を合わせて形にすることが出来るということを発信したいです。今後は更に若手のアーティスト、デザイナーさんを支援していき川口市をはじめ、日本のものづくり産業を盛り上げていきたいです。」

そう語る栗原さんが携わった3つの展示物についてご紹介を頂きました。

1.『One Flower Vase』

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デザイナーは長井康行さん。グラフィックデザインが専門で、製品設計の経験もありませんでした。長井さんは『子供やペットがいると、花瓶を置いたら倒してしまわないか心配。それでも生活に彩りを与えられないか』と自身の経験を踏まえ壁に花を飾るという発想に至ったそうです。

栗原さんはこの長井さんの発想を形にしました。
素材は全て真鍮を採用し、研磨やめっきで光沢や色合いをつけています。真鍮にすることで経年変化によるくすみが現れ、愛着が湧いてくる製品にしています。壁掛けにすることで花瓶を倒す心配もありません。またパイプ状で板厚が薄いため持っても重くない。簡単に水の取り替えができます。」

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パイプには竹の節をイメージした加工が施されており、ここでパイプが引っ掛かる仕様になっています。

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多くの箇所に『利用者の負担を減らす』工夫が施された一品でした。

2.『オリジナルリング作成サービス』

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こちらのデザイナーは齋藤秀幸さんという方でプロダクトデザインのご経験がある方です。『コロナ禍で対面によるサービスが厳しい中、ウェブ上で自身の欲しい仕様のリングが発注出来るシステムをつくりたい』と構想し齋藤さんご自身でシステムも開発されています。

栗原さんはこのリングを自動旋盤などの機械を用いて製作しました。
「それぞれ異なるお客様の仕様に対応するには、サイズ違いや材料違いといった段取り替え(製品に合わせて、加工機や治具などの設定を変更する作業のこと)を可能な限り効率的に行う必要があります。将来的には自社だけでなく他社の協力も得て対応していきたいです。」
またこのようなサービスの形はリング作成だけでなく他の製品にも応用していきたいとのことでした。

3.『ケーブルホルダーシリーズ』

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こちらも齋藤秀幸さんがデザインをされた作品です。
『コロナ禍でテレワークが増え、PCやタブレットの配線を整理出来る作品は作れないか』との発想から生まれた作品です。ケーブルボックス(黒色)は株式会社かねよしが製作し、ケーブルホルダーは栗原さんが製作しました。

作品を見ていると、デザイナーさんは何もないところから発想を生み出すわけではなく、そこにものづくりという観点が加わると「日常生活における自身の悩みや困りごと」起点での発想となり、より実用的な作品が生まれるのだと実感しました。

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ホルダーは分割式になっておりどのような厚みのテーブルにでも取付けることが可能です。

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また薄肉の金属材料を採用しているため、軽く、持ち運びにも便利です。
丸みを帯びたデザインは可愛らしさがあり、マット感のある光沢は高級感を演出しています。

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ケーブルの先端がばらばらと動くのを防ぐための固定マグネットホルダーも製作されていました。こちらも分割が可能で、様々なケーブルに対応することが出来ます。

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芸術祭会場には、栗原精機さんのオリジナル商品も出展されていました。
2年前からオリジナル商品を販売し、自社ブランドに注力をされてます。

ランタンを支える脚立


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切粉を被った機械の隣で明かりを灯すランタンの写真が飾られていました。
このランタンを支える脚立そのものが、この写真左にある機械で作られていいるそうです。

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マスキングテープカッター(MASKING TAPE CUTTER)

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こちらはマスキングテープ用のカッターです。
一般的なテープカッターとは異なりコンパクトで、アルミで出来ているため軽く持ち運びにも便利です。カバンの中に入れて持ち歩いても可愛い一品に仕上がっています。こちらの商品も非常に人気だそうです。栗原さんへのインタビュー中にも、ご夫婦でいらっしゃった方が購入を希望されていました。

栗原さんの今後への想い

「川口は元々製造業が盛んな地域。江戸時代から続く文化であり行政も製造業に注力をしています。弊社は50年前に東京のカメラメーカーの下請けから創業しましたが、他にも鋳物業の方は荒川の砂を使い砂型を作ったり、荒川の運河を利用して東京のメーカーに製品を納入していたという話もあります。当時から川口には多種多様な専門加工業者が多く、今回取り組んだまちこうば5社も皆専門分野が違います。しかし、この専門分野の違う加工業者で協力し合えば作れないものはなく、世界で戦える品質の製品を作れる自信があります。若手のアーティストさんやデザイナーさんが「何か作りたい」と思ったときに、まずは川口市に来てここの誰かに問合せてもらえれば形にできる、という文化を作っていきたいです。

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そう語る栗原さんはいまの製造業における課題解決に向けた展望も語ってくださいました。

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「製造業の大きな課題である「担い手不足」も解消していきたいです。この課題は川口だけでなく日本全体における課題であると捉えています。若い人にものづくりの「明るさ、楽しさ、やりがい」を発信していきます。今回の取り組みにおいてデザイナーさんが考えたカッコいいデザインを形にすることができるやりがいを伝えたいです。今回の取り組みを継続させていくためにも多くの方に認知頂き、声援を頂きたいです。入場は無料で川口駅からも近いです。ショッピングモールに併設しており子供連れの家族も見学に来られます。多くの方に川口市のこういった取り組みを認知して頂き、盛り上げていきたいです。今回が第一回でしたが、今後も継続して定期的に開催していきたいと考えています。」

構想から約4年、コロナの影響もあり準備が大変だったが皆で力を合わせてここまで来られた、と節々に栗原さんはおっしゃっていました。

取材後記〜訪問を終えて

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ブランドづくりというのは、製品づくりに込められたその人の想いが大きく影響すると思います。栗原さんのものづくりへの想いはこの短時間の会話の中でも大きく伝わってきました。元々はメーカー下請けから始まり、今ではオリジナルブランドの製品開発・販売を手掛けており、B2Cの難しさや苦労を実感したと言われていました。栗原さんの取り組みは今後のまちこうばの指針になっていくのではないかと思います。

お忙しい中、ご対応いただきありがとうございました。改めてお礼申し上げます。今後の活動を応援しております。

編集部注:文中「まちこうば」のひらがな表記は芸術祭の名称と揃えるために統一した表記としています。

(2023年3月8日より開催の第2回イベントページはこちら)