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【町工場が挑むB2C】目指すのは、地域で作ったものを地域で使ってもらえる未来 オープンイノベーションで取り組んだ自社ブランド

町工場が挑むB2Cとは、これまでB2B中心だった町工場(中小製造業)が、自社製品を作り、一般消費者に向けて販売すること。様々な理由からB2Cに注目し、製品開発や販売方法、ブランディングなど新たに挑戦している方々を取材しました。これからB2Cに取り組もうとしている製造業の方や、行き詰まり感や課題を感じている方々のヒントになれば幸いです(ものづくり新聞 記者 中野涼奈)

有限会社小沢製作所 小沢達史さん

有限会社小沢製作所は、創業以来50年以上にわたり、精密板金加工を主力事業としてきました。取り扱う分野は時代によって変化し、現在では半導体関係の部品製造が多くなっています。

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町工場の経営者に魅力を感じた

有限会社小沢製作所の3代目である小沢さんは、生まれも育ちも東京都八王子市です。創業者の祖父、その後を継いだ父を意識しながらも、大学時代はものづくりとは違う学問の道を歩んでいました。

「大学では分子細胞遺伝子学を学んでいました。でも研究職はあまり自分に向いていないなと思っていて、大学を卒業する頃には将来は家業を継ぐことを意識していましたね。卒業後はアメリカのロングアイランド大学でMBAを取得し、その後IT関係のシステム会社に2年ほど在籍していました。そして、2013年に家業に入社し、2019年に代表になりました。」

将来アトツギとして町工場の経営者となることを意識し始めた頃から、今の町工場の弱い部分を見つめ、自分がどこを強化してから家業に入れば有限会社小沢製作所の価値になるのかを考えていたそうです。その思いがあったからこそ、経営を学ぶためにMBAを取得したり、情報を取得・活用する環境に身を置いて鍛えるためにIT関係のシステム会社へ入社するという道を歩んできました。

OZOPS(オズオプス)を通して目指したいこと

有限会社小沢製作所の手がけるアウトドアブランド『OZOPS(オズオプス)』は、長年、本業の精密板金加工業で金属を扱ってきた経験を活かし、アウトドア製品を生み出しています。

小沢さんがOZOPSを通して目指すのは、“地域で作ったものを地域で使ってもらうこと。”ただ自社製品を販売するだけでなく、八王子を盛り上げたいという想いがあります。それは有限会社小沢製作所が町工場であることや、東京都八王子市という土地柄が大きく関係しています。

■町工場だからこそできること、できないこと
「町工場の中にあるリソースだけでは限界があります。人や場所、地域と繋がっていくことで、継続的にものづくりできる仕組みづくりがしたいです。」

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(M8ストーブ-メスティン専用ストーブ)

ある時、自然環境保護などを通して地域再生やまちづくりに取り組んでいるNPO法人小津倶楽部から依頼があり、キャンプギア作りを手伝った小沢さん。小沢さんの趣味はアウトドアということもあり、製作に熱中したそうです。そして出来上がったメスティン*専用ストーブがきっかけで、OZOPSは動き出します。
*アルミ製の箱型の飯ごう

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(YSストーブ - ヨコザワテッパン専用固形燃料ストーブ)

その後、キャンパーに人気の鉄板を扱うヨコザワテッパンと繋がり、ヨコザワテッパン専用固形燃料ストーブの開発が始まりました。ヨコザワテッパンも八王子市に拠点を構えています。製品のパッケージデザインは、会社のすぐ近くにある雑貨屋さんに相談したところ、「商品の一部だからこだわった方が良い」とアドバイスをもらい、サポートしていただいたそうです。

現時点では、この2つのストーブを自社ECサイトで販売しています。(2021年12月時点)八王子地域の様々な方々との繋がりがあったからこそ、新しい化学反応が生まれ、ものづくりが活性化しているのを感じます。

■東京都八王子市という土地柄
「八王子市の小売店、飲食店、町工場、アウトドアブランドメーカー、行政などの有志が集まり、八王子市をキャンプの街にしようと活動しています。元々このメンバーはソロキャンプイベントをしようと集まっていたメンバーで、イベントはコロナ禍で中止になってしまったのですが、他に何かできないかと再び動き出しました。八王子は都心からアクセスしやすい上に、自然が豊富です。遊びに来てくれた人が楽しめる場所を作りたいです。」

小沢さんには、色々な方々と繋がりながら製品を生み出すことはもちろんのこと、もっと広い意味で八王子市を盛り上げていこうという想いがあります。地域の仲間とものを生み出すこと、そしてそれを地域で使ってもらえる環境づくりをゴールとして活動しています。

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町工場との将来と働く人のための自社ブランド

八王子を盛り上げることや、地域でものづくりすることを意識している小沢さんですが、そもそもどんな想いからB2C向けの製品開発に踏み切ったのでしょうか?

「まず第一に経営的な理由です。将来的に自分たちが売り込みできるくらいのものを作り、2つ目の売上の柱にしたいと思っていました。既存の事業だと自分たちが主導権を握ることはできず、ある種辛い部分もあったのが正直なところです。売上規模よりも、利益率を上げていくことを意識しています。」

有限会社小沢製作所の社員は現在17名(取材時点)で、その内5名が直近3年以内に入社した方々です。社員も増え、この先どんな町工場を目指したいか考えた結果、新規事業である自社製品開発に踏み出しました。

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もう1つ大事なのが、社員への思い。

自社で働く社員に誇りを持ってもらいたいという想いがあります。これまで、自社で作っている製品が、どの製品のどこに役立っているかというのがなかなか感じにくいのが現実でした。自社ブランドに取り組んだことで、使っていただいたお客様と工場の距離が近くなりました。お客様が製品を使っている姿を知ることで、社員のモチベーションも上がっているように感じます。」

自分たちの名前で商品を出すということで、町工場にとってはある意味遠かった“実際に使ってくれている人”と繋がるきっかけになりました。売上が徐々に伸びるにつれて、社内の皆さんもワクワクしているそうです。

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周りの町工場も巻き込んで作る

「自社製品を開発する時に心がけているのは、既存の設備を使い、コストを意識した製品づくりです。もちろん、作りたいものと作れるものの葛藤はあるのですが、コストの部分を意識していると、結果として安定的で作りやすい製品を生み出すことができます。その上で、社内で難しい加工などは無理せず、その加工が得意な地域の町工場さんに依頼しています。」

小沢さんは、コストを意識しながらも、自社だけで作り上げようとしないということも大事にしています。周りの町工場に委託することで、それもまた1つの繋がりになります。ここにも、小沢さんの地域の方々と一緒に取り組んで盛り上がりたいという考えを感じます。

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未来の仲間にも伝えたい

自社ブランドを立ち上げ、PRを行っていく上で小沢さんが考えていることを伺いました。

「取り組みの魅力や面白さを伝えるため、とにかくメディアやSNSで発信しようと考えています。商品をアピールしたいという思いもありますが、何よりも面白い会社だと思ってもらいたいんです。」

取材や出演のオファーがあれば基本的に全て受けているという小沢さん。タレントのおのののかさんのラジオ番組にも出演されたことがあるそうです。それは、将来一緒に働くかもしれない新しい仲間に向けてアピールする意味もあります。

「実際にSNSを通して、弊社で働くことに興味を持ってくれた大学生もいました。こんな会社なら働いてみたいと思ってもらえるように伝えていきたいです。」

展示会で掴んだ販路と課題

小沢さんは、2021年2月、11月と「東京インターナショナル・ギフトショー(以下ギフトショー)」への出展を2回ご経験されています。(2021年12月時点)

ギフトショーへは、町工場プロダクツの一員として共同出展しました。町工場プロダクツとは、町工場の自社製品開発・発表・販売を通じ、町工場の活性させることを目的としたチームです。小沢さんはその中で、「アウトドア×町工場」をテーマに、アウトドア製品を開発した複数企業と合同で展示コーナーを設けました。

1回目の出展では、大手スポーツ量販店との契約が決まったという成果がありました。成果を出すことができた理由は、アウトドアというテーマで数社まとまって展示ブースを作ったことや、既に知名度も人気も高かったDekiTech(デキテク)さんが隣でアウトドア製品を展示されていたことで、展示への一体感が出ていました。その雰囲気がアウトドアに関心のあるバイヤーさんの目に止まったからではないかと分析しています。」

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2回目は、セレクトショップや既にファンがいるようなストアの方々と繋がり、流通経路を拡大したいという目的を持って出展しました。ですが、なかなか自分たちのブースに呼び込むことができず、1回目ほどの成果はありませんでした。その理由は、会期前に、自分たちのブースに来ていただけるような働きかけをしていなかったことだと感じています。1回目のように集客してくれるような方が近くに居なかったのにも関わらず、自分たちがそれを補うアクションをしていませんでした。ですので、3回目となる2022年2月の出展の際は、ブースに足を運んでいただきたい方々には事前に郵送物を送り、アピールする予定です。」

オープンイノベーションで開発した自社製品で
「多摩みらい賞」を受賞

有限会社小沢製作所は、2021年に多摩信用金庫が主催する「第19回多摩ブルー・グリーン賞」へ応募し、応募総数261件の中から、「多摩グリーン賞 経営部門 多摩みらい賞」を受賞されました。多摩ブルー・グリーン賞は、多摩地域の中小企業の活性化と地域経済の振興に寄与することを目的に、優れた技術や経営手腕を評価し、表彰している制度です。有限会社小沢製作所が受賞した多摩みらい賞は、特に成長性や発展性の高さを認められた団体や個人事業主に与えられる賞です。

「以前から多摩ブルー・グリーン賞のことは知っていましたが、実績が伴わず応募を見送っていました。2021年はオープンイノベーションで八王子市内の企業や町工場のお力を借りながら自社製品を開発し、販売まで辿り着くことができ、応募に至りました。多摩みらい賞を受賞することができ、大変ありがたく思っています。

多摩ブルー・グリーン賞への応募を意識しはじめたのは、株式会社池上鉄工所松田拓也さんがコンクールへ力を入れている姿をTwitterで拝見したことがきっかけです。モチベーション向上にも繋がりますし、今後も機会があれば挑戦してみたいと思っています。」

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方向を定め、社員を巻き込む

最後に、自社製品の開発や自社ブランドに取り組もうと考えている町工場の方々へのアドバイスを伺いました。

「本気でやっていきたい場合、会社として取り組むという方向決めをしっかり行った方が良いと考えます。うまくいくことばかりではないので、強い意志を持ち社員と共に取り組むことも大事ですね。その上で、興味のある分野と、実際作れるもののすり合わせを行い、地道にSNSでの発信を続け、人と繋がろうとコツコツ取り組むことで少しずつ道が見えてくるのではないかと思います。」

有限会社小沢製作所 
所在地 東京都八王子市美山町2161-6
会社HP 有限会社小沢製作所
自社ブランドサイト OZOPS
ECサイト OZOPS販売サイト


編集後記

“働く社員に誇りを持ってもらいたい”という言葉が印象的でした。使ってくれているお客様と作り手が距離を縮めることが社員にとってプラスになると考え、できるだけ社員の皆さんと共に取り組むことは、社内に良い風を吹かせることに繋がるのではないでしょうか。

また、腰を据えてものづくりをしていく上で、キーの一つになる地域との関わり合い方も参考になりました。自分たちの力ではできないことも、様々な方々との繋がりの中で達成していく姿を伺い、人と人を繋いでいく取り組みであると感じました。