「ロシア」「ウクライナ」に関係する内容の可能性がある記事です。
極端な内容・真偽不明の情報でないかご注意ください。ひとつの情報だけで判断せずに、さまざまな媒体のさまざまな情報とあわせて総合的に判断することをおすすめします。 また、この危機に直面した人々をサポートするために、支援団体へのリンクを以下に設置します。 ※非常時のため、すべての関連記事に注意書きを一時的に表示しています。
見出し画像

夢は子供がものづくりに触れられる工場をつくること

ものづくり新聞

町工場が挑むB2Cとは、これまでB2B中心だった町工場(中小製造業)が、自社製品を作り、一般消費者に向けて販売すること。様々な理由からB2Cに注目し、製品開発や販売方法、ブランディングなど新たに挑戦している方々を取材しました。これからB2Cに取り組もうとしている製造業の方や、行き詰まり感や課題を感じている方々のヒントになれば幸いです。(ものづくり新聞 記者 中野涼奈)

株式会社積誠庵 森 浩典さん

兵庫県姫路市(2022年2月に静岡県富士市から移転)の株式会社積誠庵は、主に工作機械などの修理や、金属・樹脂製品の加工を行なっています。また、町工場には珍しく菓子製作事業も行っているのが特徴的です。今回は代表取締役の森浩典(もり ひろのり)さんにお話を伺いました。

顔写真

ものづくりで感じる真面目さ

森さんは高校を卒業後、防衛大学校へ進学しました。幼い頃を含めて、ものづくりや製造業とは無縁で、学生時代に進路を考える際の選択肢にはなかったといいます。

「運動が得意で体力に自信があったので自衛官を目指し、防衛大学校に進学しました。なぜ防衛大学校に進学したかというと、本当のことを言うと試験の日程が一番早かったからなんです。当時は日本のために働くという志は正直あまりなく、自分の得意なことや将来を考えて自衛官を目指していました。入学後は厳しい訓練にひたすら耐える日々でした。」

防衛大学校へ入学後、森さんはある人物と出会い、大きな問いを抱えることになります。この問いは、積誠庵として会社を経営する現在にも繋がるものでした。

note ノート 記事見出し画像 アイキャッチ-5

「大学時代にのちの恩師となる方に、自衛官の仕事について聞かれました。私は『自衛官として日本を守ることが仕事です』と答えると、『日本ってなに?』と聞き返されたんです。正直それまではそんなこと考えたこともありませんでした。それをきっかけに、日本という国や日本らしさについて勉強し、考えるようになりました。」

“日本とは”という大きな問いに出会い、自衛官として、日本人として日本について勉強し考え始めたという森さん。現時点での答えを聞かせてくださいました。

「大きすぎる問いだけに、立場や考え方によっていくつもの答えがあると思います。あくまでも私の考えですが、まず日本文化や日本らしさを考えると、生真面目、緻密(ちみつ)、几帳面というイメージがあります。このイメージの背景には、自然環境と共に生きてきた古来の生活や、そこから派生した文化、風習など様々あります。

例えば、自衛官時代は静岡県の東富士演習場で勤務していたのですが、“富士総合火力演習”という実弾を使った演習がありました。実演のひとつに、弾を打ってから弾着するまでの時間を細かく計算してタイミングを合わせ、弾で富士山を描くというものがあるのですが、そこまで細かいことを計算して、真面目にやっている国は他になかなかありません。今ものづくりをしていても、それに近い真面目さや几帳面さを感じることがあります。日本のことを知っていくうちに、時代が変わっていくにつれ失いつつあるその日本らしさを守っていかなければと考えるようになりました。」

資源が乏しい日本でできること

note ノート 記事見出し画像 アイキャッチ-6

森さんは日本らしさや日本という国について関心を持ち勉強を続けていると、資源が乏しいという日本の現実を知ったといいます。

「例えば自衛官は鉄砲や大砲を使用しますが、鉄砲の材料となる鉄鉱石は輸入しなければなりません。鉄鉱石だけではなく、石油や食料もかなりの割合で輸入に頼っています。日本らしさを守りたいというだけでなく、日本の現状や課題についても目を向けるようになりました。」

自衛官として勤め10年ほど経った頃、転機が訪れます。

町工場で機械修理の仕事をやらないかと誘われました。経験も知識もないですし、幼い頃を含め機械加工や修理を目にしたこともなかったので、はじめはお断りしていました。ものづくりに関する興味も当時は全くありませんでした。

でも、よく調べてみると、日本の製造業が抱える課題や日本のものづくりの厳しい現実があることを知りました。海外に開発拠点や製造拠点を移したことで日本の製造業が苦しくなっていたり、高齢化によって担い手が減っていたり・・・他にもたくさんあります。そんな課題を目にし、何かできることはないだろうかと思い、製造の世界に飛び込みました。

きさげ加工の技術に出会う

飛び込んだ世界で森さんは『きさげ加工』という技術に出会います。きさげ加工とは、工作機械のテーブルのような滑りが必要な平面を加工する際に、摩擦抵抗を減らす目的で施される加工のことです。ノミのような工具を使い、表面に数ミクロンほどの小さな凹凸をつけていきます。この凹凸がなければ、平らな物と物同士がぴったり密着し、離れにくくなる現象が起きてしまい、変形に繋がることもあります。高精度の部品加工をするためには、高精度の工作機械が不可欠です。そのために、テーブルにきさげ加工を施すのです。

「きさげ加工は人力で少しずつ鉄を削るので、時間もかかるし体力的にもきつい加工です。やりたがる人はあまりいません。流行りのデジタルやAIとはまるで真逆の仕事ですが、高精度の加工をするためにはとても大事な仕事です。このような手仕事を含め、ものづくりの技術は長い時間をかけて培っていくものだと身を持って実感しました。」

機械修理、加工、和菓子・・・

機械修理業で製造のイロハを学びながらも、森さんの中で製造業が抱える課題や問題への意識が高まっていきました。

「自衛官時代に日本について関心を持ち、製造業に関わり日本の課題や現実を知っていくうちに、何か自分で動き出さなければと思うようになり、独立して株式会社積誠庵を立ち上げました。」

工場で溶接中の写真

株式会社積誠庵は2022年で設立4年目を迎えました。森さんが機械修理と加工業を担当、奥様が和菓子と革小物製作を担当しています。

「妻が和菓子の勉強をしていたこともあり、会社を設立する時に和菓子製作も会社の事業内容にしました。私たちの作る和菓子は保存料や化学調味料を使いません。色も地味で素朴な味ですが、日本に古くから伝わる素材そのものの美味しさを楽しんでもらいたいと思っています。製造業と和菓子製作は一見かけ離れているように見えるかもしれませんが、『好きな日本を守り、日本のためにできることをしたい』という思いは共通しています。」

もがいて見つけた積誠庵のスタイル

4年目に突入した積誠庵の舵を取る森さんの今の思いを伺いました。

「機械修理の依頼は、新型コロナウイルスによる影響で激減してしまいました。経験が物を言う世界なので、今は場数を踏みたいと思っていますが、ちょっと止まっているところです。でも、最近良いニュースがありました。担い手不足で和菓子店を廃業してしまった方とSNSを通して繋がり、弊社が機械を引き取り修理することになりました。修理して使えるようになれば和菓子製作の幅が広がります。壊れて捨ててしまえばそれまでですが、そうやって修理して生まれ変わることができれば、修理って意味があるねと言ってもらえるのではないかと思います。」

和菓子機械引き取り
和菓子機械引き取り2

*機械引き取りの様子

それまで事業の軸の一つであった機械修理業の需要が激減してしまったことで、現在は金属加工業の仕事が中心になっているといいます。

「金属加工と言っても分野や種類など様々ありますが、積誠庵は以下のようなスタンスで金属加工をしていきたいと考えています。」

・大量生産の逆 その人だけが価値を感じるもの
・真鍮など加工しやすいものを扱う
・小学生が見ても面白いと感じるもの

「現在弊社にある機械は、真鍮などの比較的柔らかい金属しか削れません。今すぐ色々な機械を導入することは難しいので、今は真鍮などの加工しやすい素材を使うことを考えています。そして、大量生産し多くの人にとって価値があるものというよりは、オーダーメイド性、デザイン性が高く、子供が見ても面白いものを作りたいと考えています。」

2次元から4次元へ
焼印、レリーフ、ツインオブジェ

画像4
画像5

はじめは、お菓子や木材などに施す焼印の製造を始めた森さん。頻度は高くないものの時々依頼が来るようになったと言います。その後、絵や写真、文字などを金属板に加工した記念レリーフの受注製作を開始します。しかし、なかなか販売に繋げられなかったそうです。

「ちゃんとコンセプトを持って商品開発しなければと思いました。2次元の加工を施す焼印、3次元の立体的なレリーフ・・・と来たら4次元のものを作ってみてはどうかと考えました。」

そこで森さんは思いつきで加工するのではなく、4次元とは何かを知るため数学を学ぶことを決意します。どこまでも勉強熱心な森さんです。

「勉強してみると実に様々な性質があることがわかりました。それらをヒントに開発に取り組んでいるうちに、3次元の立方体を移動させることで4次元を実現できないかと考えるようになりました。そして辿り着いたのがツインオブジェです。」

画像7
画像6
画像1

一方から見ると1人の名前しか見えませんが、立体を動かすか、見る人が動くことで2人の名前が浮かび上がり、意味を成します。感動と楽しみを生み出し、コミュニケーションのきっかけにしていただきたいと思っています。」

*動いて初めて意味を成すツインオブジェの魅力は是非動画でご覧ください

初めての展示会

ツインオブジェを開発した森さんは、商品と会社の認知向上のため、町工場プロダクツの一員として、2021年10月に開催された東京インターナショナル・ギフト・ショーへ出展しました。(町工場プロダクツとは、ものづくりコミュニティ『MAKERS LINK』から派生した、自社製品の開発/発表/販売を通じ、町工場の活性化を目的とした活動チーム)

展示会での写真

「成果としては、2022年に神戸の百貨店さんが主催する家具の催事に参加させてもらうことになりました。インテリアの一つとしてツインオブジェを展示する予定です。ギフトショーのような展示会は商品を探している方々が来場されるので、ビジネスに繋がりやすいと感じました。と同時に、知名度を上げてもっと注目してもらえるような工夫は必要だと思いました。」

展示会情報
主催:大丸松坂屋百貨店
場所:神戸六甲アイランド大丸インテリア館ミュゼエール
期間:7月16日(金)~18日(日)

新ニュース 鹿革製品の商品開発

現在は機械修理や金属加工、和菓子製作を事業としている積誠庵ですが、きっかけが『好きな日本のために何かできないか』という動機だっただけに、金属や和菓子だけにこだわっているわけではありません。

「山や海の自然が破壊されているという問題を耳にすることも多いと思いますが、その問題に対して私ができることは何だろうと考えました。農業も林業もやったことがないのでできませんが、農業が成り立つような環境を作ることはできるかもしれないと思いました。

調べると、猪や鹿などの鳥獣によって農作物が荒らされて困っているという問題を知りました。古来は人間と動物の棲み分けがなされていましたが、環境が破壊され山に食料がなくなったことが、鳥獣が里に降りて畑を荒らしてしまっている原因です。心苦しいことではありますが、農作を守るために駆除しなければいけません。猪は食用として好まれていますが、鹿はそうはいきません。そんな話を聞き、鹿革を使って製品を作り販売することができれば鹿革の価値が高まり、鹿を駆除し革を加工する人も増え、農業する環境も守られていくのではないかと考えました。問題全てを解決することはできませんが、私たちのできることで環境問題解決に取り組もうと考えた結果です。」

画像3
画像2

5年目に向けた決意

作りたいものを作るというだけでなく、その先の課題解決や社会問題にまで関心を持つ森さん。ものづくりの世界に飛び込んでみた感想が気になりました。

「ものづくりは楽しいです。これできるかな・・・という加工の時にちょっと攻めて上手くいくと経験にもなりますし、面白いです。失敗して工具が折れてしまうこともありますが。笑」

これからの決意と目標を伺いました。

「何でも時間がかかるなというのが本音です。展示会や色々なところで宣伝していますが、まだまだ知名度は低く、製品も売れていません。でも、10年くらいは売れなくてもやり続けるつもりです。高価な機械を持っているわけではないので、今取り組んでいるオーダーメイド製品であなたに合う面白いものを作りますというスタンスでやり続けていきます。」

森さんには10年後成し遂げたい夢があるといいます。

夢は工場を建てることです小学生のなりたい職業ランキングで製造業がなかなかランクインしないのは、子供の頃から製造業やものづくりを見る機会がほとんどないからだと思うのです。でも機械が動いている様子やものを作っている工場ってきっと子供にとっては面白いのではないかと思います。
ツアーを組んで見に来るというよりは、ガラス張りで安全な見学スペースを作り、見たい時にふらっと見に来られるような工場を作りたいと思っています。技術者の高齢化や担い手不足解決のためにも、子供の頃からものづくりに触れられる環境を作ることは私たちがやるべきことだと考えています。

和菓子の展示販売や、子供から高齢者まで交流できるカフェ、子供を連れて仕事ができる環境などを整備して、こだわりの工場を作りたいです。夫婦で協力しながら50歳を迎える頃には実現したい夢です。」

株式会社積誠庵
所在地 兵庫県姫路市林田町下構30番地
会社HP 株式会社積誠庵
Twitter  @sekiseian

編集後記

機械修理、金属加工、和菓子、革製品。それらは日本のために何かしたいという一つの思いが根本にあります。仕事を選ぶ際自分には何ができるかということ考えてしまいがちですが、誰かのために何かしたいという思いによって開拓して来た森さんのパワーを感じました。工場が完成したら是非とも取材に伺いたいです。

本年2月24日に、ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が始まりました。今もなお、ロシア軍による攻撃でウクライナ国民の数多くの命が失われ、多くの国民が危険にさらされています。本記事の中では積誠庵 森さんのご経歴や逸話の中に実弾や鉄砲といったお話が登場いたします。この状況下においてこの記事を公開することについて編集部内で議論がありましたが、結果、公開することにいたしました。鉄砲や大砲は演習の中だけで、実際にそれらを使う場面が来ることがない世の中を作る必要があると私たちは考えています。人によっていろいろな考え方があるかと思います。もしその点についてご意見やコメントがございましたら、ぜひ編集部までお寄せいただければと思います。





この記事が参加している募集

私の仕事

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

何かご興味があればこちらから。掲載企業へのお問い合わせや取材のご相談など、ものづくり新聞編集部が窓口となりサポートします!まずはご相談からお気軽にどうぞ(無料)

ものづくり新聞
あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすメデイア。運営:株式会社パブリカ:https://publica-inc.com/