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自分たちの手で金型を作り学びを極め、将来歩むものづくりの道に活かしたい 大阪電気通信大学 星野ゼミのみなさん

ものづくりに熱い想いを燃やす若者にインタビューしてきました。取材にご協力いただいたのは、大阪電気通信大学工学部機械工学科で星野実先生のゼミに所属する4年生の山本大気(やまもと たいき)さん、宮城慶雅(みやぎ よしまさ)さん、日高雄斗(ひだか ゆうと)さんです。

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*左から山本さん、宮城さん、日高さん

みなさんが取り組んでいるのは金型の設計製作です。設計から成形まで一貫して主体となり取り組んでいるそうです。ゴールは2022年4月20日から開催されるインターモールド2022(第33回金型加工技術展)で金型・成形品を展示し、自分たちで来場者に説明することです。

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大阪電気通信大学は、机上の教育だけではなく実験や体験を通した実学教育に力を入れているそうです。中でも工学部はその特色が強く、「技術力×人間力」の形成を目指しているといいます。

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金型製造について熱く指導する星野実特任教授です。学生のみなさんは厳しくも自分たちの将来を真剣に考えてくれる先生だとおっしゃっていました。

工学部機械工学科は「地域連携ものづくりプロジェクト」に参加しています。このプロジェクトは企業、技術専門学校、大学が集まり共にものづくりをする取り組みです。金型教育において設備やノウハウが不足しているという課題を解決するため発足しました。機械の貸し借りをしたり、技術やノウハウの共有をしているそうです。

金型を学びたいと星野ゼミの扉を叩いたみなさんは、一体どのようなことを感じ、未来を見ているのでしょうか?

子供の頃からものづくりが好き

ーーみなさん好きなものや趣味はありますか?

宮城:小さい頃からロボットアニメが好きで、プラモデルなどを集めています。特に僕が生まれた年(1999年)に公開された「THE ビッグオー」という作品がすごく好きです。あとは映画が好きで2、3本続けて観たり映画館をハシゴすることもあります。

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ーー映画は日本の作品ですか?

宮城:その辺りは気にせず色々見ています。京都出身で今も住んでいるのですが、地元にはミニシアターがありよく行きます。

ーー山本さんはいかがですか?

山本:休みの日はアニメを見たり、ゲームをしたりして過ごしています。先日までずっとコンビニエンスストアでアルバイトをしていました。

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ーーおすすめのアニメやゲームはありますか?

山本:最近発売されたPlayStationの「Horizon Forbidden West」というゲームが面白いです。アニメは春から始まる作品が楽しみですね。

ーー日高さんの趣味は何ですか?

日高:物を形にするのが好きで、宮城と同じくプラモデルを買ってきて組み立てたり、レベルはそんなに高くないですがDIYも好きです。

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ーーDIYではどんな物を作られているのですか?

日高:市販品に棚を増設して自分の部屋で使う棚を作りました。父親がDIYや車いじりが好きでその影響を受けていると思います。私も自分で手を動かして物を作るのが小さい頃から好きです。

ーー宮城さん、山本さんは子供の頃はいかがでしたか?

宮城:僕も3歳の時にガンダムを見てからプラモデル作りを始めたので、ものづくりは好きな子供でした。他のものに興味を持った時期もありましたが、プラモデル作りは3歳の頃から今に至るまでずっと好きですね。

山本:私もものづくりや工作は好きでした。

ものづくりが学べる大学

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ーー大阪電気通信大学工学部に入学したいと思った理由は何ですか?

日高:高校三年生の時にオープンキャンパスに参加し、大阪電気通信大学工学部はものづくりに力を入れていて、将来の就職にも強い大学だと知りました。将来ものづくり系の仕事に就きたいと考えていたので、大学卒業後のこともイメージしやすそうだなと思い受験しました。

山本:私も大学卒業後はものづくりの仕事がしたいと思っていて、大阪電気通信大学は様々な設備が整っていると聞いて興味を持ちました。

宮城:僕は実習メインで学べるというPRを見て、実際に手を動かして何か作れるのはいいなと思いました。

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ーー入学前からものづくりがしたいという思いは結構明確だったのですね。皆さんはまもなく卒業を迎えますが、4年間過ごしてみて入学前とのギャップなどはありましたか?(編集部注:取材は卒業式直前でした)

宮城:大きなギャップはなかったですが、機械設備が若干古いなと思いました。笑 あと、機械は結構ガシガシ使えるよって聞いていたのですが、もちろん授業では使えますが自分の趣味や練習で使いたいという時はあまり使えなかったです。授業や研究が忙しいのでそっちを優先しなきゃいけないのは仕方ないんですけどね。

ーー入学してみないと気付かないことですね。山本さんはいかがですか?

山本:ものづくりの仕事に就きたいという気持ちは固まっていましたが、専門分野の授業が多くて勉強はちょっと大変でした。

ーー専門分野の授業はどのようなことを勉強されたのですか?

山本:一年時は高校の復習と応用が多かったんですが、二年次以降から本格的に専門分野が増えていきました。

日高:4力(よんりき)という「材料力学」「流体力学」「熱力学」「機械力学」を中心に学んでいきました。

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ーーコロナ禍で授業への影響などはありましたか?

山本:3年生からは授業が全てオンラインになりました。実験する授業も当然できなくて、先生が実験した動画を見るだけになってしまうこともありました。例えば製図も家で描いていました。

ーー家にドラフター(製図台)とかないですよね?

山本:ないです。みんな定規で頑張っていました。

宮城:でもなかなかうまくはいかなかったですね。提出物などは写真を撮ってアップロードするのですが、指摘が全部文章で返ってくるのでどこを指しているのかわかりづらいこともありました。3年生の後期になると世の中が少し落ち着いたので自分たちで実験することもありました。

金型構造を考えるのが難しい

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ーー星野先生のゼミで金型を学びたいと思ったきっかけは何ですか?

日高:趣味のプラモデル作りをしている中で、ウェルド*やパーティングライン*について調べていくうちに、金型でできていることを知り興味を持ちました。

*ウェルド:射出成形時に溶解樹脂が合流する部分に発生する線状の不良現象
*パーティングライン:金型が分割される位置に発生する線のこと

山本:将来機械の設計や組み立てに携わる仕事がしたいと思っていました。将来のことを考えると、大学生のうちに金型について学べるのは貴重な経験だと思い、希望しました。

ーー金型はどんなものであるかはゼミに入る前からご存じだったのですか?

山本:テレビで見たことがある程度の知識でした。入るまでは詳しくは知らなかったです。

ーーゼミに入って金型作りをしてみて率直な感想をお聞かせください。

宮城:時間がかかるし難しいと思いました。構造を考える設計の段階が特に難しかったです。ここがしっかりしていないと組み上がらないし完成しないので、考えるのが大変でした。

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ーー特にどんな部分の設計が大変でしたか?

宮城:ピンが多くて干渉してしまったところもあり、設計していて目がチカチカしました。笑

ーー位置はどのようにして決めているのですか?

宮城:成形品を押し出す時のバランスを考えて、まんべんなく力が加わるように位置を決めています。

ーー実際に金型を作ってみた感想を教えてください。

山本:最初はたい焼きの型のようなイメージで、型に流し込んで出来上がるということくらいしか知らなかったのですが、実際やってみると斜行ピンやスライド部品があり、ものすごく奥が深いのだなと思いました。

日高:磨き作業をした時に、勘に頼らざるを得ない部分が多く難しいと感じました。(編集部注:磨きとは砥石やサンドペーパーなどを使用して金型を磨く作業です。離型性向上や摺動部の異常摩耗防止、成形品の見た目に影響するなどの理由から磨きを行います。)

宮城:金型は精密機械部品なので寸法をきっちり出さないといけないのかと思っていましたが、製品に関係のないところは金型を組みやすいように少しだけ角度をつけるなどの工夫をしました。場合に応じてそういったことをしてもいいのだというのは学びでした。

磨きが大変だった

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ーー楽しかった工程はありますか?

山本:設計に興味を持っていたのでCADを触っている時が楽しかったです。

ーー3次元CADを使って設計されているのですか?

山本:そうです。基本的に僕たちは3次元CADのみで設計しています。

宮城:実習として先生に見てもらう時には紙に出力しています。

ーー作業は分担して行ったのですか?

宮城:基本的な金型の構造はホワイトボードを使いみんなで話し合って決めました。そこから部品ごと作業分担を決めてそれぞれ設計しました。

ーー全員それぞれの部品の設計は担当されたのですね。日高さんはいかがですか?

日高:私は磨きですね。砥石は粒度が荒い320番手から始めて1000番手まで磨きました。砥石は磨く面に合うようにグラインダーを使って加工してから使いました。ここまでは最低限の磨きで、これから鏡面にも挑戦したいと思っています。

ーー320番手からスタートさせて鏡面まで進めるのはなかなか大変そうな気がします。

日高:本当は600番手あたりからスタートさせたかったのですが、マシニング加工での加工跡がかなり深く残っていて320番手から始めることにしました。

宮城:磨きはかなり大変でした・・・。本当は磨き作業なしの予定だったのですが、想定外にエンドミルがブレてしまい磨きをすることになりました。もう少し加工がうまく行っていれば楽でしたが、加工痕めちゃくちゃきつくて磨いてもなかなか取れませんでした。最初は1時間くらい磨いても全く変化がなくしんどかったです。

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ーーもっと深く勉強したいと思った工程はありましたか?

宮城:もう少し設計を勉強したいと思います。実際に設計の作業を経験することで覚えていくこともありますし、それとは別に設計の研究にも興味があります。

山本:私も設計です。座学で加工についての勉強はしてきましたが、加工現場を実際に見ることができてより理解が深まりました。こういう加工をするならばこう設計した方が良いというところなどはもっと勉強したいと思います。

日高:金型を作るにあたって本学にない機械は「地域連携ものづくりプロジェクト」に参加している他の大学に設備をお借りしたり、作業に関しては本学の技術職員の方々に助けていただきました。できることならその加工から全て自分たちでやってみたいです。

それぞれの道で ものづくりをする

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ーー大学卒業後の進路はどのようなご予定でしょうか。

宮城:大学院では3Dプリンタを使った金型製造に取り組む予定です。今までの金型は金属の塊を削って形にする除去加工が基本でしたが、3Dプリンタを使って必要な部分を積層*(せきそう)して形作る金型もあります。これを僕たちは次世代金型と呼んでいます。実習室に金属素材が使える3Dプリンタがあるのでそれを使って研究します。

*積層:融解材料を層状に積み重ねて造形すること

ーー積層式で金型を作ることにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

宮城:色々ありますが、材料のロスが格段に減ります。環境に配慮したものづくりにも関心があり取り組んでみたいと思っています。

ーー山本さんはいかがですか?

山本:私は春から機械設計の会社に就職します。入社後は2ヶ月ほど研修があり、そこで配属先が決まります。どの部署に配属されるかはわかりませんが、設計者として働きたいと思っています。

ーー機械の分野などは決まっているのですか?

山本:様々な分野の機械設計をしている会社なので、配属されてはじめてわかります。どんなふうに仕事するのかはまだわかりませんが、色々な機械設計について学べるというのは良いなと思っています。

ーー日高さんはいかがですか?

日高:宮城と同様に大学院に進学します。卒業論文では磨きについて研究したのですが大学院に進学してからはもっと深いところまで勉強したいと思っています。

ーー磨きの研究はどのような研究でしょうか。

日高:砥石とダイヤモンドペーストを使い金属を磨き、表面の荒さを測定しました。色々な条件で測定を繰り返し、粒度による荒さの違いなどを研究しました。

ーー同じ道具を使って磨いても人によって違いが出ますよね。

日高:はい。磨き作業はどうしても「カンコツ(勘とコツ)」に頼ることになってしまうのですが、それをどうにかして誰でも同じように磨けるようにはできないだろうかと考えています。

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ーーものづくり業界や製造業の方々に何かコメントをお願いします。アピールでも素朴な疑問でも、みなさんの素直な想いが聞きたいです。

山本:私は卒業研究で3Dモデルをテーマに研究したのですが、世の中を見ると2Dで図面を描くことが多いと気付きました。でも世界的には3DCADでモデルを作ることが多いので、日本でもそれを取り入れたらどうかと思いました。

ーー実際にご自身でやってみて3Dでできると実感されたからこそ感じたことですね。

山本:はい。まだまだ私たちも勉強中ですし、既存のソフトを活用したので専門ソフトではどうなるのかわからない部分もありますが、そこまで難しくは感じませんでした。

ーー他には何かありますか?実験や研究ができる施設がもっと欲しいという要望などはどうでしょうか。

宮城:あーそれはまさにそうですね!研究室などの部屋が少ないというのはずっと感じていたので、もっと色々なことができる環境になればいいなと思います。

ーー設備などの課題は、せっかく大阪ですから町工場の方々にご協力いただいてカバーできたら良いですよね。

(星野先生:2年前にまさにそのような取り組みをしようと試みたことがありました。大学と町工場でグループを作って一緒にやっていきましょうとなったのですが、コロナで全て白紙になってしまいました。)

ーーそうだったのですね。それは残念です。

日高:やはり私たち学生だけですと技術的に難しいことや、設備が足りないことがあります。地域や企業の方々にご指導いただき、ご協力いただいて一緒にものづくりしてみたいです。

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大阪電気通信大学
寝屋川キャンパス:大阪府寝屋川市初町18−8
HP:大阪電気通信大学


編集後記

ものづくりが好きという純粋な思いを持って取り組んでいることが伝わる取材でした。この先それぞれのものづくりに取り組まれることと思いますが、いつか再び取材させていただきたいと思います。

大阪電気通信大学の皆さんに取材することになったきっかけは、株式会社ミスミグループ本社で「学生ものづくり支援」を担当されている岡崎様より、ものづくりに熱心に取り組む学生さんたちを是非取材してほしいとメッセージをいただいたことでした。星野ゼミは2021年度の学生ものづくり支援の特別支援団体に定められています。この場を借りて岡崎様にお礼を申し上げます。