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タイ製造業事情:アマタシティチョンブリ工業団地

ものづくり新聞取材班はタイにおける製造業の現状を取材し、日本の中小ものづくり企業の方々に発信することにしました。第2弾は、日本企業が多数進出するタイ・バンコク近郊の工業団地「アマタ・シティ・チョンブリ工業団地(旧アマタナコン工業団地)」へお伺いしました。

工業団地入口・大きな看板がある

アマタ・シティ・チョンブリ工業団地

「アマタ・シティ・チョンブリ工業団地」はバンコク中心部から車で1時間半程度の場所にあり、4,000ヘクタールもの広大な敷地に770社もの工場が林立する工業団地です。おそらく一か所に集積している工業団地としては世界最大規模だと思われます。770社のうちおおよそ60%が日系企業です。工業団地の西端から東端まで車で移動すると30分はかかるという広さです。さらに今後拡張する計画もあるのだそうです。

街のあちこちに日本企業の看板がある

この工業団地には、トヨタ、日野自動車、デンソー、ダイキン工業、三菱電機、ブリジストン、ソニー、花王、小松製作所、IHI、クボタなど、日本の大手製造業もたくさん工場を設けており、大手企業に部品を供給するサプライヤーも多数進出しています。日本企業が多いこともあり、日本食レストランや日系ホテル(ニッコーホテル)、高級アパートなどのインフラも整っています。

アマタ・シティ・チョンブリ工業団地の上空写真(アマタ・コーポレーション提供)
工業団地風景(アマタ・コーポレーション提供)

アマタ・コーポレーション須藤治さん

そんな広大な工業団地を運営するアマタ・コーポレーションのセールス&マーケティング シニアマネージャを務めておられる須藤 治(すどう おさむ)さんにお話をお伺いしました。

アマタ・コーポレーション セールス&マーケティング シニアマネージャ
須藤治さん

ーー須藤さんは日本の商社からの出向などではなく、アマタコーポレーションのご所属とお伺いしております。海外の大学をご卒業されて就職されたのでしょうか?

大学時代にモスクワ大学に留学しロシア語を学んだ後、ロンドンで日本語教師の資格を取得し、そのまま日本語学校の運営に携わりました。その後、その日本語学校がバンコク校を設立することになり、その立ち上げをするためにタイに来ました。国立大学との提携を締結、その後フィリピンでも同様に語学コースを国立大学にて立ち上げ、2か国を統括していましたが、2007年にアマタに転職しました。

ーーではずっと海外でのお仕事なのですね。

そうなりました。アマタに入社した当時は工業用地販売の営業を担当していましたが、2015年にベトナム事業の営業統括として駐在、2022年、今年にタイに戻り、アマタグループとしての営業統括の役割を担っております。

ーータイに戻られてホヤホヤのタイミングということですね(取材は2022年7月)

そのとおりです。タイでの生活に戻ったばかりです。

アマタ・コーポレーションとは?

ーーこんな巨大工業団地を運営するアマタ・コーポレーションってどんな企業なのでしょうか?

1989年にタイで設立された工業団地開発および運営会社です。タイからスタートし、今はCLMVT(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム、タイ)と呼ばれるASEAN北部をターゲットに工業団地を開発しています。現在はタイ、ベトナムに合計100km2を超える広さの工業団地を開発し、ミャンマー・ラオスにて事業を立ち上げるまでに発展しました。合計1400社を超える世界各国の企業が私たちの工業団地に進出いただいております。

アマタ・コーポレーションが開発・運営する工業団地(アマタ・コーポレーション提供)

ーー日本企業は多いのでしょうか?

タイにある「アマタ・シティ・チョンブリ」と「アマタ・シティ・ラヨーン」は約半数が合計600社強が日本企業です。ベトナムにある「アマタシティ・ビエンホワ」も同様に5割程度が日本企業です。

ーーアマタが運営する中でも最大級の「アマタ・シティ・チョンブリ」について教えて下さい。

800社弱が入居するアマタの中でも最大級の工業団地です。自動車関連、ハイテク、電気電子、食品、化学、一般消費財、建機、物流倉庫など多様な業種が入居しています。電力供給に力を入れていることもあり、データセンターの需要にも対応しています。タイ政府が供給する電力網に加えて、自社での発電・送電事業も行っております。(Amata B. Grimm Power Company)。この工業団地だけで20万人もの人たちが働いており、地域産業を支える役割も担っています。

ーーさきほど周囲を拝見しましたが、広大な工業団地ですね。

はい、横幅約15kmほど、今後も拡張する計画があり、どんどん広くなっております。

アマタ・シティ・チョンブリ工業団地全景(アマタ・コーポレーション提供)

ーー日本企業のみなさんで集まるグループなどあるのでしょうか?

はい、あります。日系企業会が組織されており、総務労務部会で情報交換が盛んに行われています。ゴルフでの交流もあり、こういった環境は大規模な工業団地に入居するメリットとして認知していただいています。私自身もベトナム勤務以前は組織運営のお手伝いをさせていただいておりました。

ーー日本では出会えない決定権のあるクラスの方々と交流できるのはメリットですね。

そのとおりです。タイでつながった結果、日本に戻ってビジネスが生まれたケースもあるようです。

アマタ・コーポレーションの開発する工業団地の特徴

ーーアマタ・コーポレーションの強みは何でしょうか?

お客様のニーズに合わせてタイのみならず周辺国の情報提供、進出のお手伝いができるというところでしょうか。ベトナムでも経済の中心である南部だけでなく、発展著しい北部でも事業を展開しています。サプライチェーン、物流、人材、その地域での消費状況等に応じて適切な立地を提案するできることが強みです。また、アマタの工業団地は「質」を重視していますので、用地だけではなく電気、水、排水処理、通信、住居、病院、飲食など必要なインフラも整備・運営しています。ここ、「チョンブリ」もそうですが、充実したインフラが整備されています。

工業団地内にある大規模病院

ーーなぜCLMVT(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム、タイ)と呼ばれるASEAN北部をターゲットにされているのでしょうか?

製造業の輸出拠点と考えた場合、ASEAN北部、特にタイとベトナムは他の国よりも有利な立地だと考えています。物流のみならず、主要なインフラの整備が他国と比べ進んでいること、人材・製造コストとのバランスが取れていることも有利な点です。また、ミャンマーは現在の政情不安で見通しが難しくなっていますが、将来的にインド、EU方面への玄関口として機能する可能性が高く、ラオスは高速鉄道が中国から通り、ASEANからの対中国に関わる物流のゲートウェイになりうるかと思います。今後拡張する価値のある立地であると判断し、新規工業団地の開発に着手しているところです。

ーータイの方では日本語もできる方も大勢いらっしゃるのでしょうか?

はい、日本語のできるタイの方もたくさんいらっしゃいます。ただ、中国人、韓国人、台湾人と比べると「日本語検定一級」の人はどうしても少なくなります。中国語圏の方は漢字の学習で有利ですし、韓国語の文法が日本語と似ていることもあり、現地で学習してビジネスレベルまで上達する方が多いです。タイも含めて他の国籍ですと、ビジネスで不自由なく日本語ができる日本語検定1級レベルに達している多くの学習者が日本での1年以上の留学経験があります。ただ、日系企業の数が圧倒的に多いタイでは学習者の意欲も高く、日系企業の進出の大きなメリットになっていると思います。

お話しをお伺いしたアマタ・シティ・チョンブリ工業団地のアマタサービスセンター

タイ進出に際してのアドバイス

ーータイに進出する際のアドバイスをいただけますでしょうか?

日本の方の中には食事や生活などに不安を持たれる方もおられると思いますが、タイは生活環境が整っている国ですので、駐在先として「タイで難しければほかの国では無理」と言われるほどです。

ーータイの方々とお仕事するうえでの留意点はありますか?

これはタイに限ったことではないと思いますが、現地の方々と働くことを考えた場合、現地の文化を尊重し、国際的なルールや常識を一方的に押し付けないことが重要かと思います。極端に思われるかもしれませんが、おおよそ8割くらいローカルの文化を受け入れつつ、2割は国際的なルールを守ってもらう、というくらいのバランスがいいと思います。8割受け入れていたつもりでも、現地の人には5割くらいしか受け入れていないと見えるものです。

ーータイの方々から見たときに工業団地はどのように見えているのでしょうか?

チョンブリには20万人が働いていますが、工業団地が経済を回す役割を担っており、また雇用を作り出す役割を担っています。しかし、工業団地を造成すると環境が悪くなる、緑がなくなるという印象が持たれがちです。アマタでは工業団地にも緑地化を積極的に取り入れ、脱炭素に関わる事業を推進し、環境にも配慮しています。入居されている企業の従業員のほかにもその家族や周囲の人たちも周辺に住んでいますので、CSR活動や地域にプラスになる活動を情報発信しながら、工業団地に好意的な印象を持っていただけるように努めています。

ーー日本の企業の方々が海外進出する際に人材育成も重要なテーマですよね?

日本国内の人材に関して入居企業様のお話を伺っていると、海外のオペレーションの経験を重要視している会社が多いと感じます。今は国籍で区別しないグローバルな仕事のスタイルがスタンダードになりつつあるかと思います。国際的な人材を育てていくという意味でも、海外事業を経験することで人材育成を図っていただけるのではないでしょうか。
海外進出というと英語力が必要という声もありますが、ネイティブのように英語が話せるようになる必要は、ごく一部の役職以外はないかと思います。私自身海外で仕事をしていく中で、発音や語彙の問題よりも、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力のほうが重要だと実感しています。語学力だけを見て人選するよりも、バランス能力に長けた人材のほうが適切な場合もあると思います。

今後の方向性

ーーアマタ・コーポレーションさんの今後の方向性を教えて下さい。

工業団地の開発を長年進めてまいりましたが、今後の発展性を重視し、工業インフラの拡張を進めつつ、都市開発も同時進行で行っています。工業団地から工業都市、さらにはスマートシティへと転換するべく開発を進めているところです。今後は弊社がスマートシティに必要なプラットフォームを整備し、そこに投資いただく企業を誘致していくという段階に入ります。そして、現在グループ全体で100km2という開発面積を700km2規模にまで拡大していく計画です。

ーーぜひASEANの製造業を盛り上げていっていただければと思います。

もしASEANの国への進出をご検討の方や、現状を知りたいという中小企業の方、ご連絡をいただければと思います!

編集後記

取材させていただいたアマタサービスセンターの近くには大規模病院とゴルフ場、ニッコーホテル、日本食レストランなどがあり、整然と整備された町並みです。日本食レストランはまるで日本にいるかのような雰囲気で、周りのお客様もほぼ日本人でした。 周りでは、「あ、xxさんお久しぶりです。こんにちは」といった日本語が聞かれます。しかしお互いの業種や業態は全然別の人たちが同じ日本食レストランで挨拶している様子はむしろ日本ではあまり見られない気がしました。

須藤さんのお子さんは現在日本人学校に通っておられるそうです。

バンコク日本人学校には小学校から中学校まで合計2000名を超えるお子さんが通っておられるそうで、小学一年生のクラスはなんと全部で14クラスもあるんだそうです。90%の生徒は送迎バスでの通学で、100台を超えるバスで毎日送迎されているそうです。

須藤さんによれば、中学校までは日本人学校がありますが、高校からは日本人学校がないのだそうで、高校進学のときにどうするのかが課題なのだそうです。

タイに居住されている方々には現地なりの課題があるのだなと感じました。