たった2人の金型メーカー 多方面へのアンテナを張りながら楽しく面白い金型屋でありたい
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たった2人の金型メーカー 多方面へのアンテナを張りながら楽しく面白い金型屋でありたい

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今回取材したのは、埼玉県所沢市でプラスチック金型製造業を営むベクトルの原田 英一郎(はらだ えいいちろう)さんと、原田亜紀(はらだ あき)さんです。設計や製造は英一郎さんが担当し、亜紀さんは経理などの事務全般とTwitter運営を担当しています。

継ぐ予定はなかった・・・でも目を奪われた切削加工

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🗞設計から金型製作までお一人でやられているとのことですが、スキルはどこで習得されたのですか?

英一郎さん「20歳から27歳まで家業である金型屋で働いていました。当時は自動車関係や家電などの金型を作っていて、私の主な担当はCAD、CAMでしたが、マシニングなど他の工程も担当していたので、その頃にひと通り仕事を覚えました。先代の父が会社を畳むことになり、機械を譲ってもらい始めたのがベクトルです。2021年11月で創業19年になります。」

🗞原田さんは何代目ですか?

英一郎さん「祖父が創業し、業態や社名を変えつつ父が継ぎ、私で3代目ですね。正直子供の頃から継ぐつもりはあまりありませんでした。」

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🗞はじめは継ぐことにあまり乗り気ではなかったのですね。

英一郎さん「金型工場の独特な油のにおいがあまり得意ではなかったですし、切り粉が飛んで刺さったら痛いし、私が幼い頃は汚れた作業服で仕事している印象があったんです。大人になったら絶対違う仕事をしようと思っていました。高専に進学してからもそう思っていましたね。笑」

🗞高専ではどのような分野を学ばれたのですか?

英一郎さん「高専ではグラフィック工学科で、印刷技術、写真、デザインについて勉強していました。当時は本当に金型をやりたくないと思っていたんです。笑」

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🗞そんな思いを抱えながら、20歳の時に家業に入られたのは何かきっかけがあったのですか?

英一郎さん「入社する前、父に連れ出されとある展示会に行きました。当時発売されたばかりのグラフィックプロダクツさんのCAMツールを展示しているスペースで、1メートル位の大きなスペースシャトルをバリバリと勢いよく削っている光景を目にしたんです。金型はやりたくないと思っていたはずなのに、その動きに圧倒されて見入ってしまったことを鮮明に覚えています

それと、祖父がトップだった時のことを思い出したんです。その当時は景気が良くて儲かっていていつもカッコいい車に乗っていたんですね。そこに憧れましたし、父から家業に入れということはずっと言われていて、ちょっとやってみるかという軽い気持ちでした。」

🗞入ってみてどうでしたか?

英一郎さん「汚いのは嫌だと思っていたのですが、車をいじるのは好きだったのでオイルで汚れたりするのは意外に平気だと気付きましたね。」

1人で製造するからこそ大切にしたい“確認”

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🗞現在はどのような金型を作られていますか?

英一郎さん「弊社の規模だと、比較的小型のものが多いです。美顔器や歯医者さんで使う医療機器、住宅設備関係が大半ですね。特殊なネジ形状の金型も得意です。」

🗞ベクトルさんの特徴はどこにありますか?

英一郎さん「設計から製作まで私が1人で行うので、小回りが効き柔軟に対応できる点です。稼働状況にもよりますが、半日〜1日あれば大まかな型構造や、ゲートや突き出しの位置を検討することができます。また、3DCADやCAM、解析ソフトに併せてモバイルワークステーション*(複雑で高度な処理も可能なノートブック型高性能パソコン)を持っているので、お客様との打ち合わせの場でデータを見ながら型構造について検討することができます。1人なので、小回りの利いた対応ができると思います。」

*原田さんが使用されているモバイルワークステーション

🗞モバイルワークステーションはどのように活用されていますか?

英一郎さん「昔からCADを使って設計や検討している時に、外に出てしまうと作業が一切できないというところに不便を感じていました。どうしても工場を離れなければいけないタイミングもありますし、仕事の効率化を図るために、6年程前にCADを一新したタイミングで導入しました。お客様先だけでなく、自宅や思いついた時にすぐ作業できるので重宝しています。」

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🗞お一人だからこそ柔軟に対応できて、その結果素早く進められるのですね。

英一郎さん「でも、自分以外に設計を確認してくれたり、時には正してくれる存在がいないので、そこは気を付けないといけないなと思っています。テーパー(勾配)の付け方一つとっても、あらゆる可能性を考えたり、お客様との確認を丁寧に行うことは心がけています。1人だと製作面において短納期は正直厳しい部分があるので、フットワークの軽さは大事にしていきたいです。」

🗞取引があるのは、近辺(埼玉県所沢市)の会社様が多いですか?

英一郎さん「そうですね。埼玉県や東京都の池袋周辺のお客様が多いです。営業をして回ることが難しいので、既存のお客様や成形屋さんから新たなお客様を紹介していただくことがほとんどです。創業当初は特に、独立したことを知ると紹介してやるよという面倒見の良い方々にも恵まれました。」

🗞営業について詳しく伺いたいです。製造をしながらの営業となると思いますが、どうされていますか?

英一郎さん「営業はなかなか難しいですね・・・。小さい製造業にはよくある課題かもしれませんが、営業しながら製造も滞りなく進めるのは難しいです。」

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🗞新規開拓などもなかなかできない状況でしょうか。

英一郎さん「金融機関が主宰しているビジネスマッチングに登録したことはあります。うちが加工をお願いしたい業者さんと繋がることはできたのですが、仕事を受注するという面ではなかなか難しかったですね。法人ではなく個人というのもあるのかもしれません。

設計して製作するだけでなく、立ち上げてそこからトライして修正して・・・と仕事があるので、営業に充てられる時間って正直ないんです。規模を考えるとそこまで気にしなくてもいいようにも感じますが、会社として成長していくことを考えると営業力は今後強化したい点です。」

🗞コロナ禍による影響などはありましたか?

英一郎さん「やはり受注が落ちた時期はありました。でもそれが少し落ち着いた頃に、とあるお客様から「中国の大連で金型を製作して、T0(ティー・ゼロ)*も終わったんだけど、金型も成形品も日本に持って来られないからイチから作ってほしい。」と言われ、かなり特急でなんとか対応したことがありました。」
*T0・・・金型完成後、製品確認のためはじめて試作成形すること

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🗞なるほど。駆け込み寺のような役割ですね。これまで海外へ受注が流れてしまったことはなかったのですか?

英一郎さん「少し前はありましたが、ここのところ少し日本に戻ってきているように感じます。例えば、ベクトルを創業した当初からお付き合いのある美顔器メーカーさんは、最初の4〜5年こそ受注をいただいていましたが、中国に型工場を持つようになり、受注が途絶えていました。でも最近久しぶりに受注をいただき話を聞くと、中国も人件費が高騰していて、中国で作るメリットがあまりなくなってきたそうです。そういった声にはできるだけ応えていきたいと思っています。」

🗞一度海外へ流れてしまった受注が戻ってきたのですか!

英一郎さん「いきなり沢山戻ってくるということはないですが、何度かありました。でも、状況によってはキャパオーバーでやむを得ず断らなければならないこともあります。できれば受注いただいたものは全て受けたいですが、悩ましいところです。」

情報収集を重ね、やりたいことが見えてきた

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🗞従業員の方を雇っていたこともあったと伺いましたが、その当時と現在では仕事のやり方や思いは変わりましたか?

英一郎さん「従業員がいた頃は、従業員とその家族のことがあるので、今以上に目先の売上や仕事の確保のことで頭がいっぱいでした。もちろんそれが当たり前なのですが、1人になってからは気持ちの面に余裕が出て、作りたい金型ややってみたいことが出てきたんです。だからといってすぐそれを作るというわけにはいきませんが、気持ちの面で変化があると思います。」

亜紀さん「あと、1人でやるようになってから、何かに頼るということがこれまで以上に必要になってきて、最近は情報収集のためにSNSを活用することが増えましたね。」

英一郎さん「意外とYouTubeやInstagramが面白くて、新しい情報に出会えるんです。例えば、配管がUの字の金型があって構造上これは無理だなと思っても、蛇腹になって中で分解できるスライド(金型の部品)があったりするんですよ。初めて見た時は感動しました。新しいアイデアを貰って、自分ももっとチャレンジしたくなりますね。」

亜紀さん「何事にも前向きですね。今までもそうでしたが、尚更新しいことや色んなことに挑戦しようと楽しんでいる姿は見ていて良いなと思います。」

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🗞新しい情報やアイデアを楽しんで受け入れているのは、素晴らしいですね。

英一郎さん「職人の技は見て盗めとか、無理や無茶をしながら頑張るのとかあまり向いてないタイプなんです。笑 どうせやるなら楽しく面白くしたいなと思っていて、その方がきっと伸び代もあると思います。」

🗞そう思うようになったきっかけはありましたか?

英一郎さん「型屋ってどうしても働く時間が長くなってしまうんですよね。あまり良くはないことですが、1人だとどうしても工場にいる時間が長くなってしまいます。起きている時間はほとんど仕事しているなら、面白おかしく楽しい方が良いなと思ったんです。それに、子供の父親として楽しく仕事をしている姿を見せたいという思いもあります。大人になった時にそういえば父親は楽しそうに仕事してたなと思ってもらえたら嬉しいです。」

🗞将来、お子さんに跡を継いで欲しいというお考えはありますか?

英一郎さん「今は跡を継がせたいという気持ちはないですね。自分の好きなことをして欲しいと思っています。私は今3代目として跡を継いでいますが、ここへ来るまでやはり苦労が絶えなかったので、親として子供に同じような苦労をさせたいとはあまり思えないのが正直なところです。」

🗞そうなんですね。お子さんはお二人の仕事や金型屋をどのように捉えているのでしょうか?

亜紀さん「まだ小学生と保育園なのではっきりはわかっていないと思いますが、長男が保育園の卒業式で将来金型屋さんになりたいと言ったことがありました。」

英一郎さん「それまでそんな言葉一切聞いたことがなかったので、びっくりしたと同時に素直に嬉しかったことを覚えています。でも、将来金型をやりたいと言ったとしても、ベクトルの跡を継がせることはないと思います。設備や取引先など用意されていることは恵まれている環境とも言えますが、かつて私自身色んなものが揃っていることで仕事に甘えが生じていた時期があったんです。もし金型をやりたいと言ったらたくましく成長するために外に出ることを勧めると思います。」

Twitterがきっかけで工具屋さんと知り合った

🗞Twitterはどのようなきっかけで始められたのですか?

亜紀さん「個人的にTwitterを利用している時に、“製造業甘党クラブ”というハッシュタグがあることを知ったんです。率直にこのハッシュタグ使ってみたいと思い、だったら会社アカウントでやった方がいいなと思ったので始めました。」

🗞かながたくんというキャラクターは亜紀さんのアイデアですか?

亜紀さん「自社キャラクターあったら楽しいかなという本当に些細な思いつきから生まれたものです。笑」

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*亜紀さん作の名刺にはかながたくんがデザインされています

英一郎さん「Twitter関係のことは任せています。楽しんでいるようなのでそっと見守っています。笑」

亜紀さん「かながたくんはTwitterでも結構反応をもらえて嬉しいです。笑 私自身金型についてはまだまだ勉強中ですが、金型を身近に感じるきっかけになれればいいなと思います。」

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🗞Twitterを始めたことで新たな出会いもあったと伺いましたが、具体的にはどのような繋がりですか?

亜紀さん「Twitterをきっかけに、8年振りに工具屋さんとの繋がりができたんです。その担当者の方がすごく意欲的で、勉強して色んな情報交換や提案をいただくので、自分達ももっと頑張ろうと思えます。やっぱり人との繋がりって大事なんだなと感じました。」

初心に帰り丁寧な仕事を

🗞今現在課題に思われていることはありますか?

英一郎さん「売上アップや営業力の強化などの課題はもちろんありますが、長い目で見ると、最先端の技術や機械についていく努力はしなければいけないなと感じています。というのも、恐らくこの先5軸加工機などの新しい機械を使った金型作りがすごい勢いで加速していくのではないかと思っています。規模が小さくてもその流れに遅れを取らないように、今から知識だけでも養っておきたいです。」

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🗞5軸加工機はやはり導入したいですか?

英一郎さん「そうですね。設備への投資は大きな課題ですね。あと、データや寸法の記録管理はきちんとしなければならないと痛感したことがありました。以前は、金型を組み上げていく際に行った微調整をCADで行い、きちんと記録として残していたのですが、最近はCAMでツールパスを作る時にその場で微調整することが増えていました。結果は一緒なのですが、データが残っていれば同じ型の改造依頼が来た時にスムーズに対応できます。時間がないからといってその場で対応するのではなく、初心に帰り丁寧な仕事をしなければと改めて思っています。」

亜紀さん「年数を重ねる程に意識して気を付けなければいけないですね。ちょっとしたことですが楽な方に流れるのは簡単ですし、意識して新しいものに目を向けたり、意識して丁寧な仕事をするという気持ちはこれからも持ち続けたいです。」

🗞他に小さなことでも課題はありますか?

英一郎さん「小さなことですが、工場の整理整頓や掃除は結構大変です。手元は綺麗にしていますが、引き出しの中は・・・。Twitterを見ているとみなさん機械や工場が本当に綺麗ですごいなと思う反面、自分たちもやらなければと思います。」

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🗞工具の種類も沢山ありますし、引き出しの中は整理整頓しづらいですよね。

英一郎さん「成形品の収納にも悩むことがあります。ひとつひとつ形はバラバラだし、量も沢山あるのでなかなか片付かないですね。ボックスに入れてまとめておくんですが、いざ取り出したい時に探すのが大変だったりもします。」

🗞どんどん増えていく成形品の収納は、多くの金型屋さんが悩まれているところだと思います。普段の掃除は切り粉の掃き掃除などですか?

英一郎さん「本当はもっと綺麗にしたいですが、加工も次々あるので掃き掃除くらいですかね。時々床のペンキ塗りなどもしています。」

5軸加工機を導入したい

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🗞今後挑戦してみたいことはありますか?

亜紀さん「今自社製品を作っている製造業さんって結構いらっしゃいますよね。すごいなやってみたいなとは思っていますが、アイデアを出してそれを形にするのは難しいです。これからやってみたいことの一つですね。」

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英一郎さん「車が好きでサーキットを走ったりするので、車用の部品を自作して個人的に楽しんでいたことはあったんです。でも、それを販売するとなると安全上の問題も当然ありますし、色々と考えなければいけないことがあって難しいなと感じました。でも、いつかは自社製品とか自社ブランドで、うちの製品ですと言えるものを作りたいと思っています。」

亜紀さん「金型って全部お客様のものなので、これすごいと思ってもTwitterに載せることはできないんです。そこがちょっともどかしくて。笑 だから何かオリジナルで作って堂々と載せたいよねという話はしているんですよね。」

🗞将来的な展望や夢を教えてください。

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英一郎さん「やはり5軸加工機は導入したいです。5軸加工機は工具の寿命も飛躍的に伸びると聞きますし、様々な加工ができるようになれば部品の加工だけでも受注できるのではと考えています。金型製作は手間がかかるので受注してから納めるまで結構時間を要することが多いのですが、加工だけでも受注できれば短いサイクルで売上を立てることもできると思います。」

亜紀さん「価格が高いので今すぐというわけにはいきませんが、5軸加工機は以前から興味があったので、いつかは実現させたいです。」

英一郎さん「5軸加工機を導入したからといってすぐに仕事に恵まれるわけではないので、今は自分のレベルを上げていかなければいけないなと思います。今は大きな夢ですが、コツコツ丁寧な仕事をしつつ、時々展示会で最先端の機械を見て刺激を受けながら、目の前の仕事に向き合っていこうと思います。」

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所在地 埼玉県 所沢市林2-460-36
代表 原田英一郎
HP https://r.goope.jp/vec-tor6200

スクリーンショット 2021-11-11 1.15.38


       〜🗞ものづくり新聞による編集後記🗞〜

Twitterで“かながたくん”のアカウントを知ったことがきっかけで今回の取材が実現しました。所沢市にある工場に訪問させていただきましたので、工場の雰囲気が伝わる記事になったのではないでしょうか。

“最先端技術や機械に追いついていたい”という原田さんの言葉が印象的でした。今すぐ新しい機械を導入することはできなくても、常に新しい情報へのアンテナを張っていたり、品質や技術の向上を頭に置いて作業することはやはり大事だと感じました。その上で、楽しく面白く仕事をしたいという原田さんの思いがひしひしと伝わる取材でした。





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